今回ご紹介するのは
At The Black Hole(Yoshii Lovinson,2004)
試聴
客観的…A
主観的…A
必聴…"Fallin' Fallin'"ドがつくくらいキャッチャーです。
Yoshii Lovinsonこと吉井和哉さんは
1990年代中盤から2001年の解散までにかけて
(正式な解散声明は2005年に出されましたが)
日本のヒットチャートにおいて独自の地位を確立していた
The Yellow Monkeyのフロントマンで、
2003年にYoshii Lovinsonとしてソロデビューを飾ります。
ちなみにLovinsonとはイエモン時代から使われていた愛称、
ロビンにちなんだもの(だと思う)。
そして翌年の頭に今回紹介するソロ1stアルバム
「At the Black Hole」をリリース。
(ドラム以外の)演奏からミックスまでを
ほとんど吉井さん一人で仕上げたこのアルバムは
ロックリスナーから高い評価を受けることとなり、
今現在でも彼の最高傑作として語られることの多い1枚です。
ヒットチャートに好まれるアルバムだとは
少々言い難いかもしれません。
内省的で暗い世界観を持っていて、
ある意味、アーティスティックな作品。
そういうアルバムを完成させたということに対して
「イエモン時代とは違う」と評されているのをたまに見ます。
でも、イエモンのファンであるなら、おそらく、
作品の概要は何ら変わってないと思うことでしょう。
イエモンのラストアルバムから今作まで
3年半ほどのインターバルがあったので
そこらへんの録音環境の変化だとか、
宅録っぽいチープな音であるとか、
廣瀬さんのベースがないであるとか
菊池兄弟のギターとベースがないであるとか、
(すなわちソロっぽい仕上がりであるとか)
そういう表面的な変化はあるけど、
根底は何にも変わっていない。
っていうか、正味、彼らのラストアルバム「8」の
前半部分と全く同じ方向性です。
で、僕が言っているのは、
このアルバムの実質が
ヒットチャートに迎合した作品だということではなくて、
(まぁそうとも言えるかもしれませんが)
イエモンというバンドの作品も
このアルバム同様に、
大ヒットさえすればヒットチャートに風穴を開けれたような
ひねくれた傑作ぞろいだったということです。
だから、こんなイエモンの延長線みたいな
作品を作るんだったら
なんでバンドをやめちゃったんだと思ったりもします。
イエローモンキーのファンであった僕が
発売から4年経た今までこのアルバムを手にしなかった理由は
お財布の状態が一番大きいけど、
もう一つ大きなことして、
ファンだったからでこそ、というのがあります。
それで、やっとこさ聴いてみて、
やっぱり、これだったら同じじゃんと感じました。
でも、全く同じ雰囲気とはいえ、
「8」の前半よりもこちらのほうが断然ステキであると考えると、
バンドとしてもう行き詰ってしまってたんでしょうね。
だから吉井さんが傑作を生み続けるのには
解散を選ぶしかなかったんでしょうね。
イエモンを愛する僕としては
ソロでこんな傑作を発表してしまったことは
ものすごく寂しい気がするけど、
でもでも「Sicks」や「未公開のエクスペリエンスムービー」といった
イエモン時代の傑作には(僕の中では)到底かなわないので、
まぁよしとしましょう(何の話やねん)。
Aメロとサビを断片的に聴かされれば
全く別個の曲と受け取ってしまいそうなのに
それらを何の違和感もなくつなげてしまうところは
イエモン時代からの特徴ですが、
今作ではそのセンスが前面に押し出されています。
歌詞に対する評価が高いけど、
個人的にはそっちのほうが聴きどころかも。
サラっと聴きとおせるけど
よく聴いてみればすごく引っかかるという
お得な感じが好きです。
もちろん歌詞も吉井さんらしくて好き。
初期イエモンの徹底的な意味不明さが戻ってきた感じ。
長めになりますが、全曲紹介にうつります。
1.20GO
電子音とギターリフのイントロから最後までミニマルというのかスッカスカな感じで進行していき、いかにもオープニングという雰囲気。ブリッジの歌詞(「金目のもの買って〜大人になる日を迎える」)はよくわかんけど、なんかグサっとくる。「イエモンの延長線上」とか散々書いたけど、でもこういう曲はイエモン時代にはありえなかったかも。
2.TALI
シングル。この曲は歌詞がたまりませんね。さすが吉井和哉といったところでしょうか。色々凝ったフレーズが出てくるけど、個人的に一番好きなのは、普通な「辛かった、楽しかった、積もうね」です。ものすごくポップな曲だし、歌詞の言わんとしてることも、一寸先が闇であろうと愛さえあれば乗り切れるということ…と書けばあっけらかんとしたポップソングみたいだけど、実際はどことなくものすごく暗い。
3.CALIFORNIAN RIDER
アホほどポップなナンバー。もっと短くまとめてもよかった気がしますが、好きです。「ひとりぼっちのぼっちって何?」たしかに何なんでしょうね。 どうでもいい話だけど、「うんこ」って「うん」が力むときの声で「こ」が接尾語っていう由来だとかトリビアでいってました。
4.SADE JOPLIN
後期イエモンっぽいネチッこい暗さに満たされています。前半はちょっとダルめなんですが、終盤で広がりのある展開をみせて楽しませてくれます。このアルバム、イエモン時代の代名詞であった歌謡曲っぽさが希薄なのですが(まぁイエモンも言うほど歌謡曲っぽいバンドじゃなかったけど)、この曲はそれっぽさを意識してる印象。
5.Side by Side
そこらへんのV系バンドにでもありそうなバラードだけど、何気にひねくれていて何気に飽きさせない。歌詞は直接的ではないけど、淫猥。人気の高い1曲だけど、これが名曲ならばイエモンの2nd「未公開のエクスペリエンスムービー」収録曲なんて全てが宇宙的名曲になっちゃいますよ。
6.Fallin' Fallin'
暗めのAメロから気が付けばドがつくほどキャッチャーなサビ。この転換の巧さ。最高です。にしても、サビのキャッチャーさは異常ですよ。メロディー自体、耳に残るものなのですが、更に印象的すぎる歌詞。「夏のセミセミ一瞬だった、美しいね美しいね、セミダブル溺死体」わけわからんようでわかるようなわからんような、素敵すぎる。
7.Spirit's Coming(Get Out I Love Rolling Stones)
吉井さんのコラムには度々ローリングストーンズが登場して、この曲の歌詞にも「キースが〜」とあるわけだけど、「ローリングストーン」っていう言葉自体はどちらかというと「転石苔を生ぜず」の意味で使われているだと思います。まぁそんな深い意味のある歌詞でもないのかもしれませんが。めまぐるしく曲調が変わるのに全く普通な曲に聴こえる吉井さんらしいナンバー。
8.Black Cock's Horse
「その目でififif神様みたけりゃ鏡をのぞいてみな、君からのメッセージは君に返す、死ぬ時はひとりだ」僕は無宗教ではないんですけど、でもまぁいざというときに頼らなくてはならないのは神様じゃなくて自分自身なんでしょうね。そういう曲だと思います。この曲、大好きです。大して凝ったつくりではないけど、何度でも聴きたくなる。3分半強っていう長さも好きです。
9.Sweet Candy Rain
シングル。「甘ぇ、雨、飴」っていうダジャレをタイトルにしながらも、曲自体はアルバム中随一のシリアスさに包まれています。どっかで聴いたことあるようなメロディーだけど、そんなことどうでもいいくらい曲として魅力的。「みんな帰りたい本当はもう」この切なさ、半端ないです。イエモン時代はこの手の曲(「月の唄」とか「メロメ」とか)はどこか浮いてしまっていたのですが、ソロとしてのこの「Sweet Candy Rain」は名曲として成り立っています。この方向性で活動つづけたほうが面白かったと思うんですけどね。
10.AT THE BLACK HOLE
おふざけみたいなインスト。「20GO」のフレーズが引用されていて、最後と最初をくっつけようとしている演出がほどこされています。前の「Sweet Candy Rain」の感動的なノリを見事にブチ壊していますが、こういうブチ壊しこそ吉井さんの本領でしょう。
イエモンについての記述が多くなってしまいましたが、つまるところ、イエモン聴いて下さい。