けたたましく 家の電話が鳴り響いた
家の電話が鳴るときは お義母様から・・・
溜息まじり 受話器を取ると
それは 義母ではなく 思いがけない人だった
『奥様ですか?』
凛とした声が耳元で響く
あの人が私より先に出会い 愛し続けている人
この一言で それがわかった
「・・・えぇ そうです」
私は ただ淡々と答えた
『お話があるんです』
「そう・・」
『少しお時間いただけませんか?』
「えぇ 喜んで どうぞ家にいらしてください」
『外でかまいません』
「いえ この家にいらしてください 外に出たくないので」
『じゃぁ・・・そうさせていただきます』
そんなやり取りの後 受話器をそっと置いた
腹が立つでもない 涙が零れるでもない感情を
一体どう言えばいいのだろう・・・・・
きっと 彼女の方が 苦しんでいる
そんな気がして 切なくなった
〜〜♪〜〜♪〜〜
チャイムが鳴り ドアを開けると あの人の彼女が立っていた
「どうぞ 寒かったでしょう? 中に入ってください」
私は微笑みを浮かべ 彼女を招きいれた
「いえ・・・」
強張った表情が 彼女の心を物語っていて 空気が張り詰める
温かい紅茶を用意し 彼女が待つリビングへ運び
彼女は少し 居心地が悪そうに それを見ていた
「いつも主人がお世話になっています」
そう言いながら 微笑んだ私を 驚いた顔で見つめる
「いえ・・・あの・・・」
「話って何かしら?」
「彼・・いえ ご主人と・・」
そう言いかけた時 私は敢えて言葉を遮って話し出した
「貴方に主人を いえ 貴方の恋人をお返しするわ」
「えっ?」
「お嫌かしら?」
「いえ」
「いつまでも 貴方の恋人を 形だけとはいえ
私が引き止めておく事に 意味なんてないでしょう?」
「どうしてそんなに あっさり言えるんですか?」
少し苛立ったように彼女が呟いた
「じゃぁ 妻として 貴方やあの人に罪滅ぼしの請求して
卑しいほど 泣いて見せたら 満足なの?
彼の為でも 貴方の為でもないわ
もう こんな生活 私だって嫌だもの
だから 貴方に あの人をお返しするわ
貴方も今日 それを言いに来たんじゃなくて?」
自分でも驚くほど 冷たく言い放っていた
あの孤独を味わった夜や 少しだけあった寂しさを思い出す
形だけとはいえ 最初はそれなりに期待もあった
でも そんなもの すぐに消えうせた あの瞬間の 思いが甦った
「あの人や 貴方が思うほど 私 愚図でもないし
何も言えず我慢してるだけの女でもないのよ?
貴方が欲しがっているこの生活 貴方に差し上げるわ」
思い切り嫌な女になって 思い切り彼女を奮い立たせ
思い切りあの人を驚かせ 思い切って自分を前に進めよう
5分遅れの時計を見ながら 今の自分と
彼と一緒にいる自分との違いを 恐ろしく感じた
「貴方 私から あの人を 奪っていってくださる?」
飲み干した紅茶の苦味が この心に突き刺さる
私が 私である前に こうやって あの人の妻を演じ
私が 私になる為に どうやって あの人から離れるか
ずっと 考えていた 今日という日
この背中に生えている羽根を広げるために
私は 罪を増やそう
「あの人に伝えて 『貴方なんか いらない』って」
そう微笑みながら 彼女を見つめた
逃げるように帰っていった後姿を 見送り ドアを閉めた瞬間
私は 崩れ落ちるように その場に 座りこんだ・・・・
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