2011/6/23

新たな予感  ラブフルート

 玄関先にやや大きめのヒバの木があります。そこに蝉がやって来て、大きく鳴き、やがてピタッと鳴きやみました。鳥に食べられたのか、飛び去ったのか、それは分かりません。

 蝉の響きは強烈で、とてもあの小さな体が響いているとは思えない力強さが印象深く、一気に夏が来たなと感じさせるものでした。たった一度の飛来なのですが、とても象徴的でした。まだ、本格的な夏には早いと思う気持ちもありましたから、尚更印象に残りました。

 こういう季節を告げる存在がやてってくると、今年は、早いとか遅いとか、色々思ったりもします。思い返せば、早いとか遅いとか言われながら生きて来たような気もします。何も明確な基準があるわけではないけれど、早い、遅いと言われているうちはまだしも、新しいパターンに代わって、もう手遅れと言われたりもします。

 実際には個々人にとって実に調度良いようになっているな〜と思います。最後の死ぬときまで、絶妙のタイミングで命は流れていくのでしょう。

 調度いいタイミングといえば、先日近くの公園を自転車で一周してきました。カメラとフルートを背負って、程よいところで吹いてみようと思ったのでした。20分程度の散策は、しつこい蚊を避けながらではあったけれど、ほどよい気分転換になりました。

 森のあちこちでは、ほんとうに美しく見事な小鳥たちの鳴き声が響きわたっていました。輝く緑の美しさ、水場の輝き、小鳥の声の美しさに誘われて、細身のラブフルートを取り出しました。早速吹き始めたのですが、やがて自分の笛の音がなんとも貧弱で味気なく、つまらなく感じている自分が居ました。

 小鳥たちの鳴き声の巧みさに圧倒されたのだと思います。小鳥たちの歌を楽譜にしたら、見事な超絶技巧。それも一瞬の中にちりばめられているのです。ただ、こうした小鳥の鳴き声を初めて聴いたわけではありませんし、何度も似たような感覚を持ってきました。

 今回は、そうした鳴き声の美しさではなく、いのちの輝き、純粋な響き、小鳥たちの存在そのものに圧倒されたのです。随分と時間を掛けて音階を調整したフルート。そこから生まれるメロディーは、一輪の花にも及ばないと痛感したのでした。恥ずかしさと無力さで愕然として、吹くのをやめてしまいました。

 そういえばこの春聴いた雲雀の囀りの見事さにも圧倒されました。一体どこでブレスしているのかまったくわからない。循環呼吸か?!よくもここまで鳴き続けられるものだな..とややしばらく空を見げてしまいました。何よりも素晴らしかったのは、惜しげもなく全身を響かせているその姿でした。

 あの小さな体で、森いっぱいにその声を響かせるのです。人間の声帯の何分の一しかないだろう声帯から、可憐で美しく巧みな響きが生まれるのです。その響きを見事に反響させているのは、森の木々たちです。

 わずかな森の時間は、これまでの笛との関わり方を変えてしまったような気がします。ステージに立ち、拍手が聞こえてくる場所。そんな小さな空間で営まれてきた音楽の中に、決定的に欠けていたものがある。金銭と繋がる音楽は、ある種の必然なのかもしれないけれど、多分大切な何かを葬り去ってしまうのでしょう。さて、自分はどんな道を辿って行こうか...。

 小鳥の声を長い間受け止めて来た木々が笛になり、その響きが人々の心に届けられる。このことをじっくり静かに見つめ直す新たな旅が始まった。そんな予感がします。
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2011/6/15

森の中の小さな時間  雑感

  新緑が歌い踊る季節に囲まれて、太陽の光をたっぷり感じたり、月の光で周囲を眺めたり。季節そのものが私たちを支え守り導いてくれる。そんな感覚を強く感じる5月から6月の流れ。

そんな時どことなく調子が悪いのはとても残念な気がするものです。若い時とは違った残念さがあるのは、残り時間に余裕がなくなってきたからなのかもしれません。そう考えると、人生はその時々に、それなりに新鮮に感じる体験が待っているようです。

 身体の芯がどことなくすっきりしないけれど、動かなければと思い始めた時、森の中や水場に行ってみたいと思っている自分に気づきました。なかなかいい兆候です。自由気ままに、時間など関係なく、好きなように過ごそう。そんな思いがウズウズし始めたのです。

 軟らかい緑が、少し力を感じさせる緑に変化し始め、緑のコントラストが美しい季節です。ただただなんとなく、ぼーっと眺めているだけで、いいものです。動物たちはパートナー探しに必死で、新しいいのちを育む準備を始めています。

 自分も新しいフルート達を生み出すために動き始めます。体調を見ながら手を掛けて来たフルートたちが数本、ようやく旅立ちました。面白い事に、ミズナラ・ラブフルートが4本。イチイが一本です。

 彼らの旅立ちを済ませて、自分も新しく動き出そうと森の中に出かけました。それはそれは夢のような緑と水場の世界に入り込むと喜びが湧いてきます。今回は、思い切ってポロト湖まで足をのばしてみました。

 随分昔のことになってしまいましたが、アカショウビンが居るとの情報を受け、重たいカメラを担いで潜り込んだのがポロト湖でした。収穫は、鳴き声だけでしたが、この深い森のどこにいるのだろうと想像しながらテントでわくわくしながら朝を待ったものです。

 これまでにも、いろんな森に出かけました。新緑の中で見つけたアカゲラのカップルの姿は今でも鮮明に思い出します。走りまわるエゾリスやシマリス。初々しいエゾシカの子供とその家族。獲物に耳を傾けるキタキツネ。ナキウサギを求めて山に登り、クマゲラの旅立ちを追いかけた深い森。時に渓流を辿ってイワナを追い、カラスを追い払いながら釣ったイワナを塩焼きにして美味しく頂いたり...。

 森の緑たちは、一気に楽しい思い出を連れて来てくれました。生き生きと鳴き交わす小鳥たちに混じってフルートを吹き、緑の輝きを味わいながらシャッターを切る。わずかな時間ではあったけれど、次の一歩を踏み出すためのエネルギーが全身に満ちて来ました。

 今年前半のライブの8割がチャリティー。さらに待ち受ける7月にも、8月にもチャリティーライブが待っています。そんな動きの中で、色んな事が重なってフルートの製作時間がほとんど取れないまま半年が過ぎようとしています。

 このまま埋もれそうな気配もありましたが、森の木々たちが、無言で支えてくれている事を確かめる事が出来ましたので、どうやら乗り切れそうです。


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ポロト湖の奥の森・この渓流の上流にミズナラの巨木があります
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