2005/1/23
日々にうつり行(ゆく)こゝろの哀れ、いつの時にか誠のさとりを得て、古潭(こたん)の水の月をうかべるごとならんとすらん。
「塵之中日記」明治27年3月/樋口一葉
(現代語訳)
私の心は哀れにも日々揺れ動く。いつになれば本当の悟りを得て、古い淵の水に映る澄んだ月の光のように、安らかなこころに至ることができるのだろう。
「一葉語録」/(編)佐伯順子(岩波現代文庫)
最近まで樋口一葉については、初恋を描いた「たけくらべ」の作者で、24歳の若さで逝った薄幸の作家というイメージしかありませんでしたが、このところ一葉の日記とか彼女に関する本などを読むことを通して生身の彼女の実像に近づくにつれ、そうした印象が大きく変ってきました。
貧困や病に苦しみながらも挫けず、短い一生の間、強い意志とプライドを持ち続けた一葉の生き様は、甘っちょろい自分のそれと対比してまぶしく映ります。
そして一葉が生きた明治の世には強くあったであろう女性差別の偏見に抗し、あくまで性別を超えた個人に立脚した視点を持ち続けた彼女は、僕らと変わらない現代的なセンスを持った女性であったのだとも感じています。
一葉の文章は現代の僕らには難しいけれど、とても美しい文章であることはわかるので、現代語訳の助けは借りるとしても基本的にはなんとか原文で鑑賞したいところです。とくに声を出して読むと一層味わいがあります。
今まで気づかずにいた一葉という魅力的な女性について、これからもっと深く知りたいと思っています。
上に掲げた一葉の日記の文章は以下のように続いています。
愚かなるこゝろのならひ、時にしたがひ、ことに移りて、かなしきは一筋にかなしく、をかしきは一筋にをかしく、こしかたをわすれ行末(ゆくすゑ)をもおもはで、身をふるまふらんこそうたても有けれ。こゝろはいたづらに雲井(くもゐ)にまでのぼりて、おもふ事はきよくいさぎよく、人はおそるらむ死といふことをも、唯(ただ)風の前の塵(ちり)とあきらめて、山桜ちるをことはりとおもへば、あらしもさまでおそろしからず。唯(ただ)此死といふ事をかけて、浮世を月花におくらんとす。
(現代語訳)
愚かな心の常として、何かあるたびに動揺し、いちいち喜んだり悲しんだり、ただその時その時の感情に左右されて、過去も未来も考えず、場当たり的に生きているのが情けない。天翔ける心で、清く潔い思いを胸に、人が恐れる死も、ただ風の前の塵のようなものとあきらめて、咲いた山桜もいつかは散ると達観すれば、嵐もたいして恐ろしくない。ただこの死ということを覚悟しつつ、この世では月や花をめでて、せいぜい楽しくすごしたい。
(参考)
・「一葉語録」/(編)佐伯順子(岩波現代文庫)
・「樋口一葉「いやだ!」と云ふ」/田中優子(集英社新書)
・「一葉青春日記」/(編)和田芳恵(角川文庫)
・「一葉」/鳥越碧(講談社)
・一葉の墓/築地本願寺和田掘廟所(ブログ「神田川と周辺の街」)
2005/1/16
芥川龍之介の遺稿となった自伝的作品「或る阿呆の一生」(1927)の冒頭に置かれた「時代」の中に出てくる言葉です。芥川はこの原稿を託した久米正雄に"僕は今最も不幸な幸福の中に暮している"と書いています。
南木佳土の「阿弥陀堂だより」の語り手である売れない作家、孝夫が高校生の時に芥川に心酔し、とくに惹かれた言葉として引用されていましたが、僕も一時期、芥川のこうした警句にしびれていたことがあるので、孝夫の気持が理解できます。
フィクションの世界に遊ぶとき、醜い現実は小さく遠のき、色あせた。
人生は一行のボードレールにもしかない
紺色の布で装丁された古い全集の中に芥川のこんな警句を見つけると、思わず椅子から立ち上がってしまったりした。
「阿弥陀堂だより」/南木佳土
芥川の警句集「侏儒の言葉」の"人生"の項にはこんな言葉もあります。
人生は狂人の主催に成ったオリムピックに似たものである。
人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わなければ危険である。
人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかしとにかく一部を成している。
こうした言葉について、今はいささか技巧的に過ぎるのではないかという思いがあります。格好良すぎるのではないかとも。
芥川や太宰ももう一度読み直してみたいなと思っています。
2004/12/23
好きな色は何ですか
好きな色は白でしょ きっと白にきまってる
好きな季節は冬でしょ 私も冬がいちばん好きなの
「冬のソナタ」は、BS2でノーカット・字幕版を放映中ですが、これはユジンが彼女の初恋の人で、死んでしまったはずのチュンサンにそっくりのミニョンと出会い、思わず問いかけたときの言葉です。
冬、雪の場面の清新な印象が鮮やかなドラマでしたが、そうした冬・白のイメージが、ピュアな初恋物語を一層際立たせていました。
今年は、韓流ドラマ・映画が大きな話題となり、僕も「冬のソナタ」、韓国純愛映画を、たっぷりと楽しませてもらいました。
来年は、特定男優へのアイドル的な狂騒が去って、あらためて韓国ドラマ・映画の真価が議論されることを期待しています。
(参考ページ)
・「冬のソナタ」全話紹介
・韓国純愛映画
・国内純愛映画
amazon.co.jp
2004/12/16
12/11の天声人語に掲載されていましたが、英国の公的な国際交流機関「ブリティッシュ・カウンシル」が、世界規模での英語教育促進が始まって70周年を記念し、英語を母国語としない世界中の英語学習者、約4万人にインターネットなどを通して、一番美しいと思われる英語の言葉を投票してもらった結果、「Mother(母親)」が上位70語の第1位に選ばれたとのことです。
ちなみに、20位までの結果は以下でした。
1.Mother(母) 2.Passion(情熱) 3.Smile(微笑) 4.Love(愛)
5.Eternity(永遠) 6.Fantastic(とてもすばらしい) 7.Destiny(運命)
8.Freedom(自由) 9.Liberty(自由) 10.Tranquillity(静けさ、平安)
11.Peace(平和) 12. Blossom(花) 13. Sunshine(日光)
14. Sweetheart(恋人、あなた) 15. Gorgeous(華麗な)
16. Cherish(大切にする) 17. Enthusiasm(熱中) 18. Hope(希望)
19. Grace(優美) 20. Rainbow(虹)
2位から20位までは、まあそんなものかと思われますが(でも、なぜ
"Father"がないのだ?)、70位まで眺めると、日本ではなじみの薄いと思われる単語が結構出てきています。
意味でなく、語感で選ばれている言葉が結構あるのでしょう。
たとえば、
44. Bumblebee(マルハナバチ) 48. Peekaboo(いないいないばあ)
51. Flabbergasted(めんくらって) 60. Smithereens(小片)
62. gazebo(見晴らし台、人) 64. Hodgepodge(寄せ集め)
67. Fuselage(機体) 70. Hen-night(近く結婚する女性のためのパーティー)
など。
しかし、"Father"が、70位までにも入っていなくて、カンガルーや、マルハナバチや、カバにまで負けてしまうのはなんとも納得がいきません。
70位までの単語はこちらに掲載されています。
→ British Council Korea
2004/12/7
引用元:「断崖の年(1991)」あとがき/日野啓三
"クールであること"を、モットーの一つにしています(他にもいくつかあるわけです)。
わざわざモットーと標榜しているのは、実際はまるっきり逆で、何事につけて、すぐおたおたする自分を戒めてのことなんですが、敬愛する作家である日野啓三さんの著書のあとがきにこの言葉を見つけたときは、もしかして日野さんも僕と同じ想いをお持ちなのではと、あらぬことを勝手に想像してうれしくなりました。
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