【 今週の巻頭言 】
Happiness. Simple as a glass of chocolate or tortuous as the heart. Bitter. Sweet. Alive.
幸福。グラス一杯のチョコレートのようにシンプルで、人の心のように複雑。苦くて、甘くて、生き生きとして。 「Chocolat ショコラ 」/ジョアン・ハリス
しかし、それでもやはり何かを書くという段になると、いつも絶望的な気分に襲われることになった。僕に書くことのできる領域はあまりにも限られたものだったからだ。
「風の歌を聴け」/ 村上春樹
日常雑記と、メインサイト「音楽とペーパーバック 」の更新ページをアップしていきたいと思っています。
兄弟ブログの「吉祥寺と周辺の街散歩 」もよろしく。
(since 2004 Dec.)
2007/4/15
○さくら(2005)/西加奈子
僕がまだ小学生の時、ある女の子が家にやって来た。おとなしくてやせっぽちの女の子だ。それが僕らのサクラだった。サクラは白に黒ぶちの雑種で、中型の掃除機くらいの大きさ、足元が黒くて長靴を履いているみたいに見える。一応女の子だけど、サクラという名前を言わない限り、皆オス犬だと思うような冴えない風貌で、でも僕は、首根っこを後ろ足で掻くときの優しい仕草とか、土の匂いを嗅ぎながらゆっくりと移動する不遜な態度とか、それはまるで人間の女の子みたいな、たおやかで、儚(はかな)くて、それでいて力強いものを感じさせて好きだった。
語り手の”僕”は、長谷川家の次男で、兄ちゃんはかっこよさとそのモテぶりで伝説を作り、妹のミキは母さん譲りの綺麗な女の子で、モテプラス乱暴者で名を馳せたが、僕は二人に比べたらごく平凡で目立たない子供だった。愛情深い両親とパーフェクトな子供たちとサクラ、100%の幸せに包まれたかのような長谷川家に暗雲が垂れ込めたのは、兄ちゃんが交通事故に会ってからだった。
家族の愛、友情、恋愛など、様々な愛のすばらしさと脆さとが描かれている小説です。生きていくこと、愛することがどんなに脆(もろ)く危ういにしても、どこかに大きくて暖かで、かけねの無い何かがあることを信じている作者の気持ちがストレートに伝わってきて、少なからぬ感動を覚えました。
無償でゆるぎない愛を象徴しているのがサクラなのだろう。
「サクラ。」
言葉に出すと涙が出てきた。僕らはなんて、賑(にぎや)やかな人生を歩んでるんだ。初めて見た太陽は、なんだってあんなに大きかったんだ。はは、まったく、泣けてくる。泣けてきて、そして、笑ってしまう。
「きいろいゾウ」にも犬のカンユさんが登場しましたが、あとがきによると西さんの家には、サクラのモデルになったサニーという15歳になる雑種犬がいるそうです。
戯画化された人物像や究極の兄妹愛、理不尽な災難(「さくら」では、神様の悪送球といっている)など、ジョン・アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」に通ずるところがあるなと思いました。
(参考)
・さくら (amazon.co.jp)
・西加奈子 出版リスト (amazon.co.jp)
・「ホテル・ニューハンプシャー」紹介 (My HP)