2009/2/14
「隆一と有紀」 第2章
・・・・ やがて春休みに入ったある日、有紀を乗せた隆一のオースチンは、一般道から高速道路に入って、いくつかのジャンクションを通り抜けた。
少し前から隆一の口数が少なくなったと有紀が思っていると、広い料金所を過ぎた所で、遼一はクルマを左側路側帯に止めた。そこには、10台のバイクと1台の外車が止まっていた。
有紀「どうしたの? 隆一さん」
隆一「俺のバイク仲間たちなんだ」
有紀「あら、じゃぁ2人だけじゃないの?」
隆一「あれから、バイク仲間と≪アブサン≫に行ったとき、箱根行きの話をしたら、みんなのってきてね。ごめん、ちょっと声かけてくる」
有紀は、少し拍子抜けするが・・・。
隆一「じゃあ、行くかー!」
バイク陣「おーぉ」「いぇーい」「オッケー」
隆一のオースチンを先頭に、12台の一団が整然と走り出した。
有紀「もう1台のクルマも?」
隆一「杉山先輩だよ。マスターまで、仲間に入れてくれって言うんだ。その代わり費用は全額、マスター持ちってことになったんだ。いままで黙っててゴメン!」
と、両手を合わせた。
有紀「分かったわ、危ないからハンドルから手を離さないで。でもこれだけの人数じゃ、たいへんな出費よ、マスター」
隆一「それは大丈夫、マスターといったって、どうせ親父(おやじ)さんが出してくれるんだから」
有紀「まぁ!」
隆一「気にしない気にしない。さぁー、スピードを上げるぞ!」
・・・・ 先頭と最後尾がクルマ、そのあいだを10台のバイクが高速道路を快走していた。
最後尾は、父親のコンチネンタルを借りたアブさんこと杉山だ。
彼の役目は、後ろから白バイやパトカーが来たら、パッシングライトで前を走る仲間に知らせることだ。その杉山の助手席には、誰も乗っていない。
「マイッタなぁ、有紀ちゃん以外あと男ばかりだと思っていたのに、みんな彼女連れなんだもんなぁ。いいさ、箱根に着いたらステキな娘を見つけてデートに誘うんだもんな・・・」
最初はムスッとしていた杉山だが、そんな想像を膨らませているうちに何だかワクワクしてきた。その時だった、そんな杉山の耳を白バイのサイレン音がつんざいた。
杉山の淡い想像は一瞬のうちに吹き飛んだ。
「しまった!」
杉山は、すぐにパッシングライトで前のバイクに知らせた。
そのパッシング・ライトは先頭を走る隆一のオースチンまで6、7秒もかからなかった。全車、スピードダウンした。
もともとツーリングでは、先頭者は後続の車両が付かず離れず走れるように、無理なスピードは出さないものだ。
このときも、バイク仲間達のチームワークは見事で、日頃の経験がものをいった。
白バイは、なおもサイレンを鳴らしながら、右車線を追い抜いて行く。
杉山は自分の迂闊さを反省しながら、
(あの白バイ、先頭をつかまえる気だろうか・・・?)
と心配になってきた。
ところで、隆一のオースチンの150m前方の右側車線を、同じ様なスピードで走る1台のワゴン車があった。
白バイはサイレンを鳴らしながら、隆一たちの一団を抜き去ると、そのワゴン車に近づき、余裕のある車寄せのところで、左端に停車するよう合図した。
高速道路の右側車線は、追越し専用である。左車線がずっと空いているにもかかわらず、そのワゴン車は右車線を走っていた。
白バイは、反則切符を切るためにワゴン車を誘導したのであろう。違反は違反である。
・・・・ 「あの時の杉山さんのパッシング・ライトがもう少し遅れてたら、ヤバかったですねー」
「ほんと」
「そうそう」
ここは、ホテルにチェックインして荷物を部屋に置き、ひと汗流そうとやってきた男湯の湯舟のなかである。
展望大浴場というだけあって遠方に下界の街を見下ろせる眺望が素晴らしい。旅の疲れも癒されるというものである。
杉山は、あの時は一瞬しまったと思ったが、みんなからそう言われると気分がいい。
杉山は、いい気分ついでに、ホテルを予約した隆一に尋ねた。
「このホテルには混浴風呂とか露天風呂はないのかい?」
隆一「アブさんがこの企画に参加すると決まった時から、混浴風呂のないホテルをあたったのさ。露天風呂ならあるらしいよ、ただし、おばさん達ばかりらしいけどね」
一同は、ドッと笑った。
杉山は、さっきのいい気分はどこかへ消え失せてしまった。
それに、今ごろ展望大浴場の女湯に入っている彼女たちのことを考えると頭が痛い。
(これじゃあ大幅な予算オーバーだ。あとで親父に電話して、予算追加の交渉をしなくちゃあならない・・・)
ケチで頑固な父親にどう説明しようかと、頭を悩ませる杉山だった。

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