2009/2/14
ペンネーム’麻川遼一’こと(asakawa)
「隆一と有紀」全8章
「隆一と有紀」 第1章
・・・・ 講義終了のベルとともに、多くの学生が教室からぞろぞろと出てきた。
今日の講義は、これで最後だった。
ここは、東京都にある関東大学のキャンパスで、いっときに多勢の学生で溢れかえっている。
その中に、インターネットの話をしているカップルがいた。
関東大学3回生の高原隆一と、同じ3回生の川島有紀である。2人は、同い年の20才である。
隆一「最近、自分のサイトがメンテナンスを頻繁にするんで、調子狂っちゃうよ」
有紀「それは、アクセス障害の復旧とか、容量を増大するときとか、必要に迫られてするんだから、仕方ないんじゃない。よくは分からないけど」
2人とも、春休みが目前なので、喜々としてキャンパスを闊歩しているように見える。
2人は、講議が終わると、大抵いつも一緒に行動する。
有紀「隆一さん、きょうは何処に行く?」
隆一「アブサンにでも行ってみようか?」
有紀「賛成!」
駐輪場にやって来て、隆一はバイクにまたがった。
有紀が後部座席に乗り、隆一の胴体にしっかりと腕を回すと、バイクは、校門を走り抜けて行った。
・・・・ 『アブサン』とは、関東大のOBがマスターをしているジャズ喫茶の名前である。
大学からはバイクで10分ほどの距離で、駅前の一角の、はずれといっても圏内にある。隆一は、そこの常連で、有紀と来たり、バイク仲間と来て、いろんなことを時間も忘れて話し合える気楽な店なのであった。
かかるジャズも落ち着いた雰囲気の曲が多く、大声で話さなければならないということはまずない。
常連たちが比較的静かな曲をリクエストするのと、マスターの好みで、BGMに適した曲を集めているからでもある。
隆一「オッス、杉山先輩」
有紀「こんにちは〜」
マスターは、入ってきた隆一と有紀の姿をみてとると、嬉しそうに、
「やあ、いらっしゃい」
と声を掛けた。
隆一らは、一番奥の’指定席’が空いていることを確かめると、そこに向かった。
ほどなく、ステンレス・トレーにミネラル・ウォーターを2つ載せてマスターが注文を訊きに来た。この店には、ウェイトレスがいない。ジャズ喫茶の多くの店がそうであるように。
隆一「俺はホット」
有紀「あたしはレモンティーね、おじさん」
マスター「あいよ」
隆一「有紀ちゃん、レモンティーが好きみたいだね?」
有紀「あら、言わなかったかしら、レモンティーを飲むのは健康にいいんだって。レモンに入っているクエン酸が、疲労物質の乳酸を分解してくれるそうよ」
隆一「へぇー、そう。でも俺はこの店では、いつもホットコーヒーを飲むことにしているんだ。だって、レモンティーは他でも飲めるだろ。ここのコーヒーは、とびきり旨いんだ」
有紀「えぇ、それはみとめるわ」
・・・・ マスターの名前は「杉山二郎」、あだ名は”アブさん”である。
店の名前が『アブサン』だからか、いつのまにか常連たちは、そう呼ぶようになった。
マスターの杉山は気分は若いつもりだが、有紀たちから見れば、おじさんと言われてもしかたがない。
隆一と同じく、関東高校からエスカレーター式で関東大に入学したが、卒業するのにギリギリの八年間掛かった。
父親は杉山建設の社長で、いずれあとを継ぐのだが、今のところ好きなジャズが一日中聴けるジャズ喫茶のマスターにおさまっている。
隆一「それより、春休み、どうする?」
有紀「冬休みはスキーに行ったし、今度は何処がいいかしら?」
隆一「だったら、箱根までドライブ旅行しないか?」
有紀「バイクで?」
隆一「いや今度、車を買ったんだ」
有紀「豪勢ね。バイクはもうやめるの?」
隆一「バイクはバイク、車は車さ」
有紀「隆一さん、あなたのバイク、外国製だから、もしかして車も・・・外車?」
隆一「当たりー!」

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