
*青年は、この書物と一夜を共にする。L『生きている兵隊』
石川達三の書物は、父の本棚にうずたかく詰まれており、学生時分に読み綴った作家の、ひとりです。この今では世間の耳目にのぼりにくい作家であろう、と想われる小説家の作で、僕が真摯に気持ちを傾けて読み綴った作と申せば、『生きている兵隊』。一括りの戦争小説という枠を脱した諧謔性なるものが感じられ、この書は、南京陥落の翌年1月、その南京に取材に訪れた著者による、作です。「時局に合わぬ、聖戦に従う軍を誹謗したもの」として昭和13年、発禁の書となりました。『青春の蹉跌』では、若き女性の類いなる剛腹さに脅え、『蒼氓』では、あの太宰の受賞を阻んだとして(第1回、芥川賞作品)、あまねく興味と、作自体の崇高さを感じたくて、読み綴りました。『蒼氓』は、出航までを描く第1部、『蒼氓』、航海途上を描く第2部、『南海航路』、ブラジル上陸を描く第3部、『声なき民』から成り、この第1部に、芥川の冠のついた賞が付与されたわけです。世界観は、僕の好むところで、筆致としては読み易いほうかなと想います。今日は、またひとりの偉人の作を、紐解いてみたりしているのでした。
青年は、忘れ去られゆく一人のもの書きに寄り添うてみる。文人、そこにはこの想いが匂い、立つ。