2009/3/24

時の砂地  ハボロイ

安息という夜の終わりが流し込んだのは、絶えた時間へのレール。
ざり、ざり、と。
苦い音がして、甘い。
頬を撫でるのは柔らかな唇でも、生まれたての赤子のような肌でも、脂粉の残り香でもない。
だからだ。
ざり、ざり、と。
巣食った夢に絡め取られる。
「……馬鹿、やめろ、ヒューズ」
現実に引きずり出された。
過去を重ねた言葉が当たり前過ぎた。
口から出て行ったはずの音が、どうやって一気に体温を限界まで落としたのか。
開いたはずの瞼が震えるのは、そのせいなのか。
その名前の。
やめてくれ、見たくない。ようやく帰ったひとつの光が、陰るのを見たくないんだ。
繰り返して繰り返して、けれど顔を上げてうかがってしまう。
「あー、いいッス」
言い訳も取り消しも与えない間が卑怯だ。
「わかってますってば。だーからそんな顔しないでくださいよ。ね?
そーいう時は、『すまない、アイツほどお前が格好良いから間違えた』って
キスのひとつでもしてくれればいいんです」
ウインクを寄越して、口付けて、表情を隠して、余裕ぶる態度がずるい。
謝罪すら許さない隙のなさをどこで手に入れた。
「ヒゲ」
「はい?」
「無精ヒゲを擦り付けるなどと、あいつにそっくりなことをした、お前が悪い」
口の先が触れる距離で咎めれば、情けない面が似合いの元部下は顔を引っ込めた。
「スミマセン」
肩先に頭を乗せてくる。
「謝罪はいい。かわりに」
近くなった耳たぶを、噛んでやった。
金色の髪が揺れるのが見えた。
「……いいんですか」
「私の台詞だ。昨晩は病み上がりだと思って少々、手心を加えすぎたようだ」
「へえ」
トーンの下がった声が鎖骨に移動を始める。
「手加減など、させるな」
頭を抱きこんで、囁いた。
「試したくなるからやめてください」
返された囁きに、目を閉じた。
絹のような極上の孤独はもう、手放していい頃だ。
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