2009/3/24

涙の理由  エドロイ




 ガキだ、という自覚はある。
 十以上離れているという事実もある。
 だけど、もうこどもじゃないのだ。
 己の感情位は、理解出来る。
「……っ、く」
 あの、屈しようもない焔を宿した目を、屈辱に歪ませてみたいなど、と。
 誇り高い矜持を最下層まで引き摺り落としてやりたいなど、と。
 このオレが考えているとは、想いもしないだろう。
 あの男の目には、未だオレはこどものままに映っている。
 でも、気が付いていないだけだ。
 その、こどもの時からオレは、お前を蹂躙したいと考えていたのだから。
 目の前に現れ、挑発を吹っかけて行ったあの男。
 保護者面をして、オレ達をその立ち位置から見下ろすばかりだったお前。
 そのとき、から。
 お前を平伏せ、詰り、絶望させて。
 消えない傷を。
 オレと言う名の傷を刻んでやりたいと。
 泣かせて、懇願させて、欲に塗れさせたあいつの顔を、見たいと。


「っふ、あ」


 この根底は、誰から継いだでも無いオレの性根なんだろう。
 それに気付いていた弟は、軍に入るといったオレを何も言わず送り出した。
 気がすむまでやってダメになったら帰って来るといい。
 なんだったら玩具も持っておいでよと、恐ろしい笑みを浮かべて。


 結局、オレは未だそれを実行に等移せていない。
 チャンスが無い訳でもないのだ。
 だが、決定打が無い。
 それを行動に移すだけの決定打が、オレには見つからないのだ。
「くっ……く、そっ」
 熱だけが、身体の中で渦を巻く。
 行き場の無いそれが、思考を腐らせて行く。
 ただ発散するだけなら、どんなものでもいいのだ。吐き出すだけなら、金さえ出せば何とかなる。事実その為に行きずりの女も男も抱いた。
 だけど、この熱は冷める事が無い。
 ああ、頭おかしいな。
 いっそ、薬でも盛って監禁しちまえばいいか。
 家に誘い込むのは足が付くから、何処か別の場所にでもつれこんで。
 手足を鎖に繋いで、何もせずに突き入れてやったらきっと、いい声、で。
「っっ……! は、ぁ……ぁ、っく」
 一瞬、意識が途切れたのは達したからだ。こんな事考えながらでも抜けるのかと毒づきながら、手の中に吐き出された欲の温度で瞬時に引き戻される。
 薄青いような白いそれが、行き場も無く手を濡らしていた。
「く、くくっ…っふ、、は、はははっ!」
 結局、頭の中でこうやって考える事しか出来ないのか。
 お前の周りは護りが強過ぎて、オレがお前をかっ攫って服従させる事すら侭ならない。
 そうだ、オレはただお前を平伏せて詰って罵って暴いて印を付けて痛みを刻み付けて。

 オレを。
 その目が、オレを、オレだけを。

「は、はは……っ、く」

 何たるザマだ。
 これは単なる所有欲だけじゃない。
 このオレが、一人の男を欲してこれだけ足掻いている。
 欲しいのだ。
 あの男の、全てを手に入れてしまいたい。
 あの男の、全てを閉ざしてしまいたい。
 その果てに得られるものが、憎しみであろうと哀れみであろうと。
 かまいは────

「っ……っく、ぅ、っ」

 なぜ、だ。
 この声はなんだ。
 この、目から溢れたものは、なんだ。
 オレは、支配したいだけ。
 それだけ、の、はず。



 いつも、こうやって流れる涙の訳を。
 オレは決して理解するつもりは、無かった。




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