2009/3/26
お題 U-11 エドロイ
ほかのやつらがあんたのこんなとこ見たら。
いったい、なんて思うだろうな。
いつもいつも、そんな台詞が頭の隅を過ぎりはするが、相手がそれを意に介さないことを知っている。
もちろん相手も、自分が万に一つでも、そんなことを誰にも許さないことを、当然知っているだろう。
「……はー……」
大佐、という地位に相応しい程度には、傷跡の残る背中を見つめて溜息をつく。
己の呼吸は荒かったが、相手のそれの方がよりもっと切実に、荒く、切なく、せわしなかった。
「……なァ……大佐」
エドワードは呼び掛けた。
おそらくは意地、なのだろう。
息も絶え絶えになっておきながら、相手はそれでもシーツの上に両手をつき、身体を起こそうとしている。
その指先が、震えながら乱れたシーツに食い込むのを、エドワードはじっと見ていた。
「……く」
と小さな呼気が洩れる。
相手はなんとか身体を支えて体勢を立て直そうとしているようだったが、たぶん無理だろうとエドワードは踏んだ。
案の定、程なくして相手は力尽き、そのままシーツに突っ伏してしまう。
ぐしゃぐしゃに乱れたシーツの海へ、まるで溺れていく様に見えた。相手の抵抗が虚しく終わると、どこか胸のすく思いがするエドワードだ。
「……大佐」
もう一度、呼ぶ。
「たーい、さ」
声も無く。
相手は崩れたままである。
視界の中で、呼吸に上下する大きな背中に、エドワードは手のひらで触れた。
かちゃかちゃという耳障りな音を立てる、右の腕の機械鎧。温度を宿さないその掌で、相手の肌を撫でていく。
おそらくはその冷たさに、ひくっと相手が反応したから、気を失ってはいないはずだ。
あるいは音を上げるのが癪で、いっそ失神したフリでもしているのか? と、エドワードは可笑しくなって喉を鳴らした。
視線でも背中を辿っていくと、その先に、ベッドサイドのランプのもとで、汗に濡れて艶やかに光って見える黒い髪。
それを綺麗だと思った瞬間を覚えている。
その瞬間に、自分はこの男に囚われた。いまはうつ伏せで見えない瞳の色もそうだが、この男の纏う黒は、その本質をよくあらわしている。
応えられない素振りをすれば、自分が止まると思ったのだろうか。
だとしたら、いつのまにかずいぶんと信用されたものだと思った。
すなわちそれは、この男が自分の前で無防備であることにそれだけ躊躇いを無くしているということに他ならない。
こうして投げ出している背中。この男がそんなことは、他の誰にもしないことを知っているから、信用を預けられること自体は心地よくはあるのだ。
でも。
舐められてるし。甘く、見られてもいるんだよな。
あんたはオレを甘やかしすぎたよ。感覚のない機械鎧の指をせいぜい優しくすべらせつつ、エドワードは心の中でそう呟く。
残念ながら、あんたには優しくしなくていいことも、オレはとっくに――知っている。
そういう関係じゃないからな。オレとあんたの関係は。
かしゃん、と音を響かせて、相手の男の首を掴んだ。
そしてエドワードはその背中へ屈み込み、黒髪からわずかにのぞく耳に唇を寄せていく。
「……駄目だぜ」
低く。聞き取れるかどうかというくらいの声で。
そう、耳許に呟いた。
「まだイケるだろ。……もっとだ。大佐」
後ろの髪を掴むようにして、少し頭を持ち上げてやると、痛みにか不意打ちにか相手が唇を歪ませるのがわかった。
それでも、この男は。
エドワードと、交わることを受け入れる。
近づけた唇で、耳朶に口接けた。
そこから顎に賭けてのラインを、差し出した舌でそろりと舐める。
「……はがね、の」
無理にあおのかせているから、喉が圧迫されて掠れた声を発させる。その苦しげな、溜息混じりの声にぞくりとした。
「っ、……く」
煽ってんの、と上から踏みつけるように言って、相手の頭をうつ伏せにしたままどさりとシーツに押しつけるエドワードである。
相手は呻いた。
エドワードは嗤う。
実際、そうやって煽られているのは自分の方であるかもしれない。この男にはそういうところもままあって、それはよくわからない。
最悪の醜態であろう、その姿。
他の誰にも晒すことなど出来るはずもないそれは、しかしエドワードにとって、最高の心地をももたらしうる。
策の上で躍らされているのがどちらなのか、行き着くところまで行ってみなければ毎度毎度わからないのも、この男が持つ麻薬のような魅力のうちだ。
だからこそ、とも言えるのだろう。エドワードが、止まれないのは。
「悪いね。大佐」
甘い言葉や、甘い仕草はそこにはない。
ただ、自分たちはそうやって――互いにまだ手探りしている最中なのだ。
これ、はそういうことなのである。
満ち足りるには、まだ遠い。
たったこれしきの摩擦熱では、溶けきらず、混ざりきらない金と黒。
ドロドロになるまで、溶ければいい。
だからそれを。
もっと、もっと。
あんたでもっと、埋めてくれ。
0
いったい、なんて思うだろうな。
いつもいつも、そんな台詞が頭の隅を過ぎりはするが、相手がそれを意に介さないことを知っている。
もちろん相手も、自分が万に一つでも、そんなことを誰にも許さないことを、当然知っているだろう。
「……はー……」
大佐、という地位に相応しい程度には、傷跡の残る背中を見つめて溜息をつく。
己の呼吸は荒かったが、相手のそれの方がよりもっと切実に、荒く、切なく、せわしなかった。
「……なァ……大佐」
エドワードは呼び掛けた。
おそらくは意地、なのだろう。
息も絶え絶えになっておきながら、相手はそれでもシーツの上に両手をつき、身体を起こそうとしている。
その指先が、震えながら乱れたシーツに食い込むのを、エドワードはじっと見ていた。
「……く」
と小さな呼気が洩れる。
相手はなんとか身体を支えて体勢を立て直そうとしているようだったが、たぶん無理だろうとエドワードは踏んだ。
案の定、程なくして相手は力尽き、そのままシーツに突っ伏してしまう。
ぐしゃぐしゃに乱れたシーツの海へ、まるで溺れていく様に見えた。相手の抵抗が虚しく終わると、どこか胸のすく思いがするエドワードだ。
「……大佐」
もう一度、呼ぶ。
「たーい、さ」
声も無く。
相手は崩れたままである。
視界の中で、呼吸に上下する大きな背中に、エドワードは手のひらで触れた。
かちゃかちゃという耳障りな音を立てる、右の腕の機械鎧。温度を宿さないその掌で、相手の肌を撫でていく。
おそらくはその冷たさに、ひくっと相手が反応したから、気を失ってはいないはずだ。
あるいは音を上げるのが癪で、いっそ失神したフリでもしているのか? と、エドワードは可笑しくなって喉を鳴らした。
視線でも背中を辿っていくと、その先に、ベッドサイドのランプのもとで、汗に濡れて艶やかに光って見える黒い髪。
それを綺麗だと思った瞬間を覚えている。
その瞬間に、自分はこの男に囚われた。いまはうつ伏せで見えない瞳の色もそうだが、この男の纏う黒は、その本質をよくあらわしている。
応えられない素振りをすれば、自分が止まると思ったのだろうか。
だとしたら、いつのまにかずいぶんと信用されたものだと思った。
すなわちそれは、この男が自分の前で無防備であることにそれだけ躊躇いを無くしているということに他ならない。
こうして投げ出している背中。この男がそんなことは、他の誰にもしないことを知っているから、信用を預けられること自体は心地よくはあるのだ。
でも。
舐められてるし。甘く、見られてもいるんだよな。
あんたはオレを甘やかしすぎたよ。感覚のない機械鎧の指をせいぜい優しくすべらせつつ、エドワードは心の中でそう呟く。
残念ながら、あんたには優しくしなくていいことも、オレはとっくに――知っている。
そういう関係じゃないからな。オレとあんたの関係は。
かしゃん、と音を響かせて、相手の男の首を掴んだ。
そしてエドワードはその背中へ屈み込み、黒髪からわずかにのぞく耳に唇を寄せていく。
「……駄目だぜ」
低く。聞き取れるかどうかというくらいの声で。
そう、耳許に呟いた。
「まだイケるだろ。……もっとだ。大佐」
後ろの髪を掴むようにして、少し頭を持ち上げてやると、痛みにか不意打ちにか相手が唇を歪ませるのがわかった。
それでも、この男は。
エドワードと、交わることを受け入れる。
近づけた唇で、耳朶に口接けた。
そこから顎に賭けてのラインを、差し出した舌でそろりと舐める。
「……はがね、の」
無理にあおのかせているから、喉が圧迫されて掠れた声を発させる。その苦しげな、溜息混じりの声にぞくりとした。
「っ、……く」
煽ってんの、と上から踏みつけるように言って、相手の頭をうつ伏せにしたままどさりとシーツに押しつけるエドワードである。
相手は呻いた。
エドワードは嗤う。
実際、そうやって煽られているのは自分の方であるかもしれない。この男にはそういうところもままあって、それはよくわからない。
最悪の醜態であろう、その姿。
他の誰にも晒すことなど出来るはずもないそれは、しかしエドワードにとって、最高の心地をももたらしうる。
策の上で躍らされているのがどちらなのか、行き着くところまで行ってみなければ毎度毎度わからないのも、この男が持つ麻薬のような魅力のうちだ。
だからこそ、とも言えるのだろう。エドワードが、止まれないのは。
「悪いね。大佐」
甘い言葉や、甘い仕草はそこにはない。
ただ、自分たちはそうやって――互いにまだ手探りしている最中なのだ。
これ、はそういうことなのである。
満ち足りるには、まだ遠い。
たったこれしきの摩擦熱では、溶けきらず、混ざりきらない金と黒。
ドロドロになるまで、溶ければいい。
だからそれを。
もっと、もっと。
あんたでもっと、埋めてくれ。
0