2009/3/27
御題 I-18 エドロイ
これは、ある意味戒めみたいなもんなんだ。
そういって、こどもだったあれが眉を潜めて笑ったのはいつだったか。
取り戻す事の出来なかったその手足は、言わせるならば『弟の魂の対価』なのだ、と。
そういった横顔に、胸の奥に蟠りが浮かばなかったと言えば嘘になる。
余りに癒着していたとも言える兄弟は、今はそれぞれに道を歩んでいはするが、それでも世間一般のそれより仲がいいのは周知の理解。
欲しいと言われ、それに答えてから余計にそれに気が付いたとも言えるのだ。
胸の奥に湧いた、それ。
別に互いに依存も執着もしてはいないが、何故かムカつき腹が立つものではあった。
それを、ある日言い咎められたのだが、その相手が悪かった。
よりによって、あの男の弟だったの、だ。
「どうしたんですか一体」
ちょっと一休みしませんか?と連れ出されたのは町中のカフェ。
ちょうど帰るところだった自分がまさかこの男に呼び止められる等とは思いもよらなかったし、何よりシフトが重なるとも思っていなかった。
「どうしたは、こっちの台詞なのだがね。私を茶に誘って何か特でもあるのか?」
「いえ、貴方が僕を凄い形相で睨みつけてたので、呼び止めたまでですけど」
発せられた言葉に、ロイは凍った。
まさかそこまで顔に出していたつもりはなかったのだが、この男は相手の僅かな違いも表情として読み取る事が出来る。
挨拶された時か、とロイは思い当たって息を吐いた。
その事、をちょうど考えていた時に耳に入り込んだその声は思考を拡散させるには十二分な効力を持っていたのだから。
「ああ、すまないな……勝手に腹を立てていただけだから、気にするな」
「僕に、ですか?」
「……わるいか?」
「へぇ?僕に、貴方が?」
何か獲物を見つけた仔猫のように、その瞳が光を宿す。
金色は、やはり揃いのように同じ色を宿していて。
「その理由は、あの人?」
獲物を捕らえ、離さぬ金色のそれ。
「それとも、僕……違うな、僕達二人に対して、でしょう?」
問いに対してうっかり頷いたのは、そのせいだと思うしかなかった。
「全く、そんな事まで洞察しなくてもいいだろう」
「これが仕事、ですから」
にっこり笑ったその笑みが、酷く残忍なものに色を変える。
捕らえた獲物を弄ぼうと企むような、好奇心と残忍さを共存させたその笑み。
「あの人に心寄せる人間が僕に向けるとすればそれは間違いなく嫉妬ですよ」
それに飲み込まれまいと、気を逸らす等に取り上げたカップはもう冷たくなって。
置かれた茶はいつしか湯気を昇らせる事を忘れ、苦さばかりが舌に染みる。
「僕と兄の癒着を表向きに知っているだけでも、その繋がりには間違いなく嫉妬を覚えるに決まっている。でも、貴方はそれだけじゃあありませんよね?」
そこまで行って、弟はゆっくり足を組み替えた。
腕を組み、ロイの言葉を待つように悠然と椅子に背を預けて。
蕩けるような甘い笑みを、浮かべてみせた。
「口を割らせるのは簡単ですが、出来れば貴方の言葉で伺いたい。それによっては僕は今後の動きを変えざるを得ない」
さぁ、と視線が促すそれ。
十以上も違う男だが、流石に屈するより他はない。
「……ああ、そうだとも。私は君に嫉妬している。あれの身体に未だ残る機械鎧は、何よりも君達を繋ぐ証だろう。それを見る度に」
「貴方はあの手足の影に透ける僕に対して嫉妬している、という訳ですか?」
くつ、と目の前の金色を眇めてかの弟は笑う。
「全く、何を言い出すかと思ったら。確かにあの手足は僕を取り戻した証とも言えるもの。だけれどあれはそれ以上でもそれ以下でもなく、それによってあの人を縛り付けよう等と僕が考えた事は無い」
自分は今、かなり間抜けな顔をしているのだろう。そんな事をロイは考えていた。一生涯かけての宿敵になるであろうこの男を捕まえてよりにもよってそんな事を聞き出そうとしているのだから。
だがしかし、その口から出て来たのは想像を超えた言葉だった。
「確かに、僕はあの人とそういう関係だった時期がある。だけどそれはまあ…言うなれば自慰に限りなく近いモノでしかなかったし、かといってそれで互いががんじがらめになる事も無かった。その証拠に」
ぴ、と指がロイを指し示す。
「あの人が選んだのは、貴方だ。かなり歪んだ感情ではあるものの、あの人が自分から所有欲を持って動いた事なんて今までにありはしない」
「……君の、身体を取り戻したのは所有欲、では無い、と」
「あれを所有欲と言うなら僕等はとっくに世界をこの手に治めて独裁者だね。家族という絆が持つものと、それ以外を欲するものは全く違う」
探り当てた銀時計を覗き込み僅かに眉をひそめると、彼の弟は指を組みロイを睨みつけた。
「暇にかこつけておかしな事を考えないように。あの人が…兄さんが選んだのは貴方。それを疑う事があるならボクは今すぐにでもあの人を貴方の手元から取り戻す。ああ、それよりも」
に、と形のいい唇が嫌味な程綺麗に笑みを結ぶ。
「いっそ、揃って僕の玩具にしてあげようか?大丈夫、すぐに慣れて楽し────っ痛ぁ!」
ごつ、と重たい音が響いてロイは視線を僅か持ち上げた。
「何を人のモノに物騒な事囁いとるんだこの木瓜弟が」
長い金色の髪に金の瞳は紛れも無く、想い人。
握った鋼の拳が弟の脳天に当たりググ、と力を込めて押さえつけている。
「は、がね、の」
「鋼の、だぁ?名前呼べってあれほど言っただろうか!」
「すまないな、慣れないんだよ」
困ったように笑えば、この男は僅かに顔に紅を走らせ次の言葉を失う。
判っていてやった事ではあるが、それもまたこうしているうちに覚えた事でもあった。
「……っ、あーもう!いい加減慣れろってあれほど」
「はいはいご馳走様。それでさ、折角だから今夜は三人でたの」
肩を竦めて弟はカップに残る茶を啜りつつまたしても予想外の言葉を紡ぐのだ。
「お前はお前で少し自重しろ!」
無論それにも教育的指導という名の鉄拳制裁が待ち構えているのだがそう何度も喰らう訳でもなく交わしていなして大騒ぎ。まるで仔猫がじゃれ合うようにしている二人に、胸のうちのあった凝りが消えて行くような気がして。
側にいた時間が、寄り添う為の証ではないのだと気が付いて。
ここに自分がいる意味は
ちゃんとあるのだと
ようやっと、気が、付いて。
ふいにこぼれ落ちた笑い声に、目を丸くして兄弟は動きを止める。
「……どうした」
「遂に頭おかしくなった?」
「違うよ、君達が余りに可愛くてね」
「可愛くない!」
綺麗に揃って発せられた否定の言葉も、否定にならないのだという言葉はとりあえずしまっておいて。
この二人が揃って存在する事こそ、想い人が己の側にいる事なのだと。
その鋼の手足こそが、その証拠なのだという事に。
そんな簡単な、些細な事に嫉妬して。
それの本質に気付く事も出来ないのか、と。
ロイは己が識った恋の重さを今更ながらに思い知った。
エドロイ担当(というかエルリック担当)です。
アルロイ臭くてゴメンナサイ、これでもエドロイです(と主張)
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そういって、こどもだったあれが眉を潜めて笑ったのはいつだったか。
取り戻す事の出来なかったその手足は、言わせるならば『弟の魂の対価』なのだ、と。
そういった横顔に、胸の奥に蟠りが浮かばなかったと言えば嘘になる。
余りに癒着していたとも言える兄弟は、今はそれぞれに道を歩んでいはするが、それでも世間一般のそれより仲がいいのは周知の理解。
欲しいと言われ、それに答えてから余計にそれに気が付いたとも言えるのだ。
胸の奥に湧いた、それ。
別に互いに依存も執着もしてはいないが、何故かムカつき腹が立つものではあった。
それを、ある日言い咎められたのだが、その相手が悪かった。
よりによって、あの男の弟だったの、だ。
「どうしたんですか一体」
ちょっと一休みしませんか?と連れ出されたのは町中のカフェ。
ちょうど帰るところだった自分がまさかこの男に呼び止められる等とは思いもよらなかったし、何よりシフトが重なるとも思っていなかった。
「どうしたは、こっちの台詞なのだがね。私を茶に誘って何か特でもあるのか?」
「いえ、貴方が僕を凄い形相で睨みつけてたので、呼び止めたまでですけど」
発せられた言葉に、ロイは凍った。
まさかそこまで顔に出していたつもりはなかったのだが、この男は相手の僅かな違いも表情として読み取る事が出来る。
挨拶された時か、とロイは思い当たって息を吐いた。
その事、をちょうど考えていた時に耳に入り込んだその声は思考を拡散させるには十二分な効力を持っていたのだから。
「ああ、すまないな……勝手に腹を立てていただけだから、気にするな」
「僕に、ですか?」
「……わるいか?」
「へぇ?僕に、貴方が?」
何か獲物を見つけた仔猫のように、その瞳が光を宿す。
金色は、やはり揃いのように同じ色を宿していて。
「その理由は、あの人?」
獲物を捕らえ、離さぬ金色のそれ。
「それとも、僕……違うな、僕達二人に対して、でしょう?」
問いに対してうっかり頷いたのは、そのせいだと思うしかなかった。
「全く、そんな事まで洞察しなくてもいいだろう」
「これが仕事、ですから」
にっこり笑ったその笑みが、酷く残忍なものに色を変える。
捕らえた獲物を弄ぼうと企むような、好奇心と残忍さを共存させたその笑み。
「あの人に心寄せる人間が僕に向けるとすればそれは間違いなく嫉妬ですよ」
それに飲み込まれまいと、気を逸らす等に取り上げたカップはもう冷たくなって。
置かれた茶はいつしか湯気を昇らせる事を忘れ、苦さばかりが舌に染みる。
「僕と兄の癒着を表向きに知っているだけでも、その繋がりには間違いなく嫉妬を覚えるに決まっている。でも、貴方はそれだけじゃあありませんよね?」
そこまで行って、弟はゆっくり足を組み替えた。
腕を組み、ロイの言葉を待つように悠然と椅子に背を預けて。
蕩けるような甘い笑みを、浮かべてみせた。
「口を割らせるのは簡単ですが、出来れば貴方の言葉で伺いたい。それによっては僕は今後の動きを変えざるを得ない」
さぁ、と視線が促すそれ。
十以上も違う男だが、流石に屈するより他はない。
「……ああ、そうだとも。私は君に嫉妬している。あれの身体に未だ残る機械鎧は、何よりも君達を繋ぐ証だろう。それを見る度に」
「貴方はあの手足の影に透ける僕に対して嫉妬している、という訳ですか?」
くつ、と目の前の金色を眇めてかの弟は笑う。
「全く、何を言い出すかと思ったら。確かにあの手足は僕を取り戻した証とも言えるもの。だけれどあれはそれ以上でもそれ以下でもなく、それによってあの人を縛り付けよう等と僕が考えた事は無い」
自分は今、かなり間抜けな顔をしているのだろう。そんな事をロイは考えていた。一生涯かけての宿敵になるであろうこの男を捕まえてよりにもよってそんな事を聞き出そうとしているのだから。
だがしかし、その口から出て来たのは想像を超えた言葉だった。
「確かに、僕はあの人とそういう関係だった時期がある。だけどそれはまあ…言うなれば自慰に限りなく近いモノでしかなかったし、かといってそれで互いががんじがらめになる事も無かった。その証拠に」
ぴ、と指がロイを指し示す。
「あの人が選んだのは、貴方だ。かなり歪んだ感情ではあるものの、あの人が自分から所有欲を持って動いた事なんて今までにありはしない」
「……君の、身体を取り戻したのは所有欲、では無い、と」
「あれを所有欲と言うなら僕等はとっくに世界をこの手に治めて独裁者だね。家族という絆が持つものと、それ以外を欲するものは全く違う」
探り当てた銀時計を覗き込み僅かに眉をひそめると、彼の弟は指を組みロイを睨みつけた。
「暇にかこつけておかしな事を考えないように。あの人が…兄さんが選んだのは貴方。それを疑う事があるならボクは今すぐにでもあの人を貴方の手元から取り戻す。ああ、それよりも」
に、と形のいい唇が嫌味な程綺麗に笑みを結ぶ。
「いっそ、揃って僕の玩具にしてあげようか?大丈夫、すぐに慣れて楽し────っ痛ぁ!」
ごつ、と重たい音が響いてロイは視線を僅か持ち上げた。
「何を人のモノに物騒な事囁いとるんだこの木瓜弟が」
長い金色の髪に金の瞳は紛れも無く、想い人。
握った鋼の拳が弟の脳天に当たりググ、と力を込めて押さえつけている。
「は、がね、の」
「鋼の、だぁ?名前呼べってあれほど言っただろうか!」
「すまないな、慣れないんだよ」
困ったように笑えば、この男は僅かに顔に紅を走らせ次の言葉を失う。
判っていてやった事ではあるが、それもまたこうしているうちに覚えた事でもあった。
「……っ、あーもう!いい加減慣れろってあれほど」
「はいはいご馳走様。それでさ、折角だから今夜は三人でたの」
肩を竦めて弟はカップに残る茶を啜りつつまたしても予想外の言葉を紡ぐのだ。
「お前はお前で少し自重しろ!」
無論それにも教育的指導という名の鉄拳制裁が待ち構えているのだがそう何度も喰らう訳でもなく交わしていなして大騒ぎ。まるで仔猫がじゃれ合うようにしている二人に、胸のうちのあった凝りが消えて行くような気がして。
側にいた時間が、寄り添う為の証ではないのだと気が付いて。
ここに自分がいる意味は
ちゃんとあるのだと
ようやっと、気が、付いて。
ふいにこぼれ落ちた笑い声に、目を丸くして兄弟は動きを止める。
「……どうした」
「遂に頭おかしくなった?」
「違うよ、君達が余りに可愛くてね」
「可愛くない!」
綺麗に揃って発せられた否定の言葉も、否定にならないのだという言葉はとりあえずしまっておいて。
この二人が揃って存在する事こそ、想い人が己の側にいる事なのだと。
その鋼の手足こそが、その証拠なのだという事に。
そんな簡単な、些細な事に嫉妬して。
それの本質に気付く事も出来ないのか、と。
ロイは己が識った恋の重さを今更ながらに思い知った。
エドロイ担当(というかエルリック担当)です。
アルロイ臭くてゴメンナサイ、これでもエドロイです(と主張)
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