ミスト

ネタバレ記事

原作はそもそもスーパーから脱出した後に辿り着いた建物にて誰にともなく書き残した日記という設定の小説で、今も霧が深くその中に正体不明の何かが潜んだままで一向に解決する気配を見せないまま終わる。ただ、もはや機能していないはずのラジオから一瞬だけ「希望(hope)」という言葉が聞こえたような気がした。というくだりで終わる。

この小説を始めて読んだ高校生の時にとても衝撃を受けたのですが、当時はただ漠然と凄い物語だと思っていただけで、具体的にどこがどう凄かったのかうまく説明できませんでした。

まあ、今でもうまく説明できません。

よくよく冷静に考えるとこの小説のシチュエーションってホラー作品としては古典的とさえいえる程のありきたりのものだと思うのですが、皆さんどうでしょうか。

ただ、スティーヴン・キングって「クージョ」などが良い例なのですが、くどい程登場人物の日常描写を描くので物凄く読んでいて退屈するのですがその描写が妙に生々しいというかリアルというか、その分物語の核心に迫る頃には嫌でもその登場人物のバックグラウンドが刷り込まれているので感情移入してしまうのですね。

ちなみにその「クージョ」という小説は狂犬病にかかった犬に襲われる恐怖を描いているのですがラスト読んでいて心臓バクバクする程ハラハラしましたし、最後はボロボロに涙を流していました。これもお勧めの本です。

という事で「霧」も物語冒頭はわりと何気ない日常描写が続きスーパー行くまでは平和な感じなのですが、そこから一気に物語が加速していき、霧の中に何かがいて、その何かが何なのかは分からないが触手やらでっかい昆虫やら蜘蛛のような巨大生物やらが襲ってきたりとスーパーの中でのサバイバル劇が展開される。考えてみると物凄く陳腐なストーリーにキング独特の巧みな文章で引き込まれる訳です。

で、結局霧がいつ晴れるかなんて当然分かりはしないし、正体不明の昆虫っぽいやつらがどれだけうじゃうじゃいてどこから沸いて出てきているのかも分からない。今も深い霧の中で何から逃れているのかも分からない逃避行は続いている。てな感じで終わってしまうわけです。

まあ、この先は読者の想像力に委ねるというところだろう。

エンディングとしては読む人によっては終わりなき旅がずっと続くという感じで救いのない絶望的な物語になっていますね。まあ、このあとすぐに霧が晴れて、とか実はただの夢でとか人によりその後の展開をどう想像するかは分かりませんが私は凄く悲しい後味の悪い作品として心に残っています。あ、後味悪いといっても良い意味での悪さなのであしからず。これ読み終わった後は本当にこの作品の素晴らしさにゾクゾクしました。

ただ、これを映像化するとなった時のリスクは相当高いでしょう。観る人によってはなめてんのか!と思いかねない展開だと思うので・・・

まあ、そこは監督のフランク・ダラボンも心得ていたのかパンフレットにも映画用のエンディングを用意しなければと思ったそうです。それで、監督が考えたエンディングを原作者のキングに説明したところ、当時この小説を書いている時にこのエンディングを思い付いていたら間違いなくこういう終わらせ方にしていたと言われたみたいですね。

で、その肝心の映画のエンディングですが、もう私の好みど真ん中な終わらせ方をこの監督はさせやがりました。

正直、キング作品のホラーものって映像化されると大抵こけるので、今回も心配でした。というか「キャリー」「シャイニング」「ペットセマタリー」とテレビ映画「IT」くらいしか今までヒットしていない気がする。あとまあ広義でのホラーとして「ミザリー」ですか。これらの作品だって「IT」以外は個人的には原作と比べてしまうとどうだかという感じです。「IT」は原作のあの膨大なページ数を良く映像向けにアレンジしていて面白かったです(DVDも持っていますし)。

そもそもキングのホラー作品って文字として読むとキングのストーリーテラーとしての巧さが出ていて面白く読めるのだが、冷静に考えて映像として思い浮かべるとかなり陳腐でB級な匂いがプンプンしてくるので映画としてはこけて当たり前なのですよね。

で「ミスト」ですが、当然観るまでは今回もホラーだしこけるかな、特に触手がでてきたりという所は滑稽な映像なんだろうな、とか思っていたのですよ。

実際にそのシーンになってから正直、ああ今回も駄目かな・・・何か映画館の雰囲気がありえない位陳腐な映像見せられて呆気にとられて凍り付いていると思ったわけです。だからもう半分諦めて観ていました。

でも何だろう。滑稽な映像以外のシーンでは電気も電話も通じていない閉ざされたスーパーで次第に派閥が分かれ登場人物の切羽詰った雰囲気が凄くシリアスで良い。滑稽な巨大昆虫への恐怖というよりも極限状態の人間の恐さに焦点をあてている。本来のキングの小説も結局のところ未知のものへの恐怖もあるが、それ以上に次第に精神が蝕まれていく人間模様が面白いという事に今更ながら気付かされた。きっと今までのホラー作品を映像化した方々はきっとそこに気付いておらずただやみくもにキングが描いた「形」として具現化した恐怖を言葉通りに「形」として映像にしているだけなのかも知れない。うまく説明できないがそんなところだろう。

さてそんなこんなで結果的に引き込まれてあっという間の2時間でした。

肝心の原作と違うラストは、それはもう衝撃でした。いろんな意味で・・・

純粋にショックでした。やりきれない思いで一杯です。というか、いくらホラー作品とはいえこれは物議を醸すのではと思いパンフレットを読んでいるとやはりアメリカでも議論を呼んでいるそうです。

ただ、監督の狙いはそこだったらしいです。ただ綺麗に終わらせただけでは「あー面白かったねぇー」と思うかも知れないが、そういう感想しかもたずしばらくすればこの作品の事など忘れてしまう。でもそれだと何の意味もない、どうせならいつまでも印象に残さないと駄目だと思ったみたいです。

でもねぇ。観る人によってはめちゃくちゃ引くと思います。

どういうラストかというとまあ、ネタバレ記事なので書いてしまいますが、最後スーパーから主人公とその息子と他3名が主人公の車に乗って脱出するのですよ。とにかく霧が晴れるかどうか分からないがガソリンの続く限り南を目指そうと・・・

で、結局ガス欠になりまわりを見回すとまだ霧が濃く、耳を澄ませば得体の知れない何ものかの音が聞こえるわけです。

で主人公達の手元に残った一丁の拳銃。これで自ら命を絶とうと皆で目配せするのだが残弾は4発。一発足りないという事で主人公だけおれは何とか方法を考えると4人を次々と撃っていく。

どれだけ辛い思いをしながらそんな事をしたかは観る者には計り知れないだろう。自分が撃ち殺した中には自分の息子もいるし、他の連中もずっと一緒にサバイバルしてきた仲間です。

狂おしい程に叫ぶ主人公。そして最後に車を出て霧のなか得体の知れない何ものかに襲われて死ぬ覚悟をした直後・・・

なんとキャタピラの音がしたと思ったら軍隊の戦車が登場し、それに続くようにヘリの音もし、歩兵は手に火炎放射機であたりを一掃していき、霧もやがて晴れる。

その戦車の後には救助された市民がトラックの荷台に乗って移動しているのですが、その中の一人に映画冒頭主人公達の反対を押し切り、皆から非難され、あなたたちなんか地獄に堕ちればいいんだわ、と良い残し家に残してきた子供達の元へ行くために一人スーパーから霧の中に消えていった女性の姿がある。

なんともやりきれない救いようのない後味の悪い作品だろう。でもこのエンディングがなければ私のような一部のキングファンの間でしか印象に残らない作品になっていたかも知れません。

万人受けする事は絶対ないだろうが、個人的にはここ最近の映画では物凄く面白かったです。

2008/05/15 投稿者:でに

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