先日、旅行で奈良に行った。言う間でもなく奈良は古い街だ。特にこの奈良町資料館があるあたりは、古い町並みをそのままに残している。歴史と生活と土俗と美が混然となったような町――そんな界隈である。
この本は、そのような奈良町の生活をさまざまな祭を中心に歳事記風に綴ったものだが、生活に織り込まれた祈りと歴史の深さ、そしてその結果としての四季折々の瑞々しさには一種陶然とするものがある。町内を単位として大切に守っている仏像や掛け軸が、場合によっては千年近い昔のものであったりする。勿論、物だけではなく、人々は町内を単位とするような固有の風習を古来と変わらず守り続けている。勿論、決して綺麗事ばかりでもないとは思うのだが、そのようなことも含めた独特の湿り気が数々の祭事の中から立ち上ってくる。その湿り気は、日本的な共同体が孕むさまざまな感情とも結びついているし、微妙な季節の移り変わりとも結びついているし、そして眼に見えぬ霊力に対する祈りの力とも結びついている。闇夜を静かな水が流れていくような、そんな美しさと恐さ、やさしさと冷たさがこの町にはある。そして、言う間でもないがそれは日本という古い存在が持っているひとつの力でもある。

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