《「だから何でも書き留めます。
アインシュタインもそうしてたそうですよ」》
村上春樹の最新小説集。村上春樹の小説は、考えてみるともうかれこれ二十年近く読んでいることになる。それほど劇的な事件が起きるという内容でもないし、作風もある意味では一定のもののように思うが、やはりそのほとんどの小説を面白いと思うし、やはり村上春樹の小説は唯一無二で、結局は模倣できないものだったのだろうと思う。
村上春樹のこれまでの仕事を考えてくると、そこには無視できないひとつの特異な取り組みがある。それは、オウム真理教事件に対する関心だ。周知のように彼はあの事件の後、事件の被害者そして加害者の双方についてのインタビュー集を出版した。そのとき彼は「やみくろ」という概念について言及したはずだ。東京の地下に蠢く「やみくろ」。どこか太古の神話的な響きを持つこの言葉が、その後の十年の中で彼に何を与えたのか。少なくとも東京という言葉を持ったこの短編集に、その影響が皆無だということはあるまい。ちなみに、東京奇譚集と銘打っているこの本で、堂々とハワイを舞台とした短編が入っているのも考えてみれば奇妙だが、作者の頭の中で東京とハワイは何か通底するものでもあったのだろうか。

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