「詳解西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919~1945(山崎 雅弘)」
その他のレビュー(書籍ほか)
手軽に西部戦線の全貌を知ることのできる良著
以前に同じ作者の東部戦線に関する本を紹介しましたが、今回はヨーロッパでのもうひとつの戦い、ドイツと英米仏連合軍との戦争にテーマを絞った本が出ました。644ページ、1260円という文庫にしては大部になりますが、足掛け7年にわたる戦史を端折りすぎず難解になりすぎず、要領良くまとめた本だと思います。
ただ、全く何も知らないひとが読んでわかるかというとそうではなく、最低限当時のヨーロッパにおけるパワーバランスとか軍事レベルについての知識がなければついていけないでしょう。前著同様、100枚にも及ぶ多数の地図が収録されており、理解の助けになりますが、兵科マーク満載なので、バツ点が歩兵で楕円が戦車くらいのことはわかっていないとわけがわからなくなるかも知れません。また、主力が戦車の部隊のことを、ドイツは装甲部隊と呼び、英米は機甲部隊と呼ぶのも、「そういうものだ」と読み流す度量が必要です。
私がこの本を評価する理由はいくつかあり、そのうちの最大のものは、戦争の経過描写はさておき戦間期の国際情勢に充分なページ数を割いているということでしょう。正直なところ、その部分の方が読みごたえがあったとも思えます。第一次大戦の悲惨な戦いを反省し、二度とあのような歴史を繰り返したくないと誓った筈のヨーロッパの人々が、どうして同じ道を歩んでしまったのか、もちろんきちんと語ればそれだけで数冊の書物ができてしまうのでしょうが、そのエッセンスを手軽に仕入れることができます。ドイツの軍備をどの程度まで認めるかという点で英仏の間に差があったこと、ドイツは陸軍国としての伝統を守るためにどのような工夫をしたのか、チェンバレン首相の宥和方針はなぜなされいかに裏切られたか、ヒトラーはポーランド侵攻を本当に意図していたのかどうか、などが明快に語られていきます。
開戦後は、ポーランド制圧、ノルウェー侵攻、ベネルクス侵入からフランス降伏、バトルオブブリテン、と順に語られ、そこから一気にノルマンジー上陸までスキップします。意外に感じますが、実際この間はドイツはソ連との戦争にかかりきりで西部戦線はメンテナンスモードだったので当たり前といえば当たり前。その後もフランス解放に続いて、マーケットガーデン作戦(遠すぎた橋)、ラインの守り作戦(バルジの戦い)、ライン川渡河(レマゲン鉄橋)と映画化された挿話を挟みつつ終戦に至ります。ただ、戦争の推移そのものは既に一方的になっており、この辺になると退屈でもあります(これは東部戦線でもそうだった)。
前述の通り、この本の白眉は開戦に至るまでだと思いますので、いかにして第二次世界大戦が起こったかを多少ミクロな目で見たい人には、最初の部分だけでもお勧めしてよいでしょう(もちろん、戦争に至る背景そのものには、一次大戦同様に植民地獲得に出遅れてしまった内陸国と、既に各地に資源地を確保している海洋国との確執や、莫大な賠償金を押し付けられて国が絶望的な状態に至ったところにちらつかされたナショナリズムの甘い罠などがあるでしょうし、この本はそういうマクロな視点まではカバーしていません)。
ここまで来たら、欧州大戦の残された部分(地中海戦線とファシズムそのものの概説)も読んでみたいものです。ただ、この本が「詳解西部戦線全史」で、前著が「完全分析独ソ戦史」となぜか不統一なのが気になります。