よくある「謎本」なんですけどね
私も年代が年代なので、「機動戦士ガンダム」については一応知ってはいるのですが、自分で情報を集めたのではないのに、周囲にディープな人が数人いたもので、ひとりでに知識が入ってきたところもあります。この本は、5月の末に出ていたものらしく、この超有名アニメについての謎本です。
私は初回放送の時には全くこのアニメについては知らず、高校で数人がはまっていたのを知り(うちひとりはそっちの業界に行ってしまったらしいのですが、今は何をしているんだろう?)、さらにゲーム雑誌でこのアニメを題材にしたシミュレーションゲームのリプレイを読み、ちょっとずつ知識が増えていく過程でテレビで映画版を見たという経過のような気がします。ただ、テレビ版はなかなかまとめて見る機会がなく、先日CSで放送されていたのでなんとなく見たところ、初めて見たエピソードの多かったこと・・・
いわゆる「大人の事情」もあるでしょうし、それ以外にもおかしなところも探せばきりがないのですが、シャーロキアンがシャーロック・ホームズの「聖典」を穴が開くほど読んで、一見矛盾に思える記述に合理的な説明を見つけていったのと同様、このアニメのファン達も矛盾点に対して説明をつけようとしました。そして、製作者側もファンのアクションを柔軟に受け止め、一部はそれを吸収するようにして作品世界を深層化していきました。幸運だったのは、番組が終了してしばらくしてからブームが起こり、機が熟したところで映画化がなされたことでしょう。この時点である程度エピソードが整理され、歴史の流れが合理化されたのは事実です。
さきほど「大人の事情」と書きました。最近のアニメは全く見ないので知らないのですが、当時はCMで分割される前半と後半(Aパート、Bパートと言うんでしたっけ)のそれぞれに戦闘シーンを入れなければならないという縛りがあったらしく、そのためにストーリー展開はかなりの制約を受けています。また、ロボットアニメ(あえてこう呼びますね)は所詮は玩具メーカーのプロモーションであり、合体模型が売れないことにはしょうがないので、主人公側のメカも、途中からいろんな合体を始めるようになります。この辺、用兵的に見たら全く意味不明な合体をしたりして、見ていて恥ずかしくなったりも致します。
しかし、その辺を全て含めたとしても、しかも現在の物差しで見たとしても、このアニメは革新的であったし今でも容易に凌駕することができない作品であり続けています。既に山ほど「ガンダム論」は世に出ていて、私みたいなよそ者が付け加えることはないのですが、敢えて数点だけ指摘しておくとします。
ひとつにはロボットアニメに生産と補給という概念を持ち込んだこと。これ、現実世界では至極当たり前なのに、それまでの番組ではほとんど無視されていました。兵器はどこかで造られなければ前線に供給されないし、供給されるためには輸送と配分がなされなければならないし、生産されるためにはやたらとラインを多様化させるべきではないし、しかも使えば必ず痛み、弾薬も消耗するのです。それなのに、従来の子供向け番組では、善玉のメカはいくら傷ついても翌週にはほぼ新品同様に戻り、弾薬切れになることもありません。悪玉のメカは、前の週に大健闘したモデルがあるにも関わらず、それを量産化するということがなされず、新たなモデルが毎週生産されます。主要な敵メカ以外にいわゆるやられ役があって、これは敵としても惜しみなく、やられるためにのみ投入してきます。このアニメにおいても、やられ役はやられ役で変わらないのですが、敵はそのやられ役メカを大事にしています。主役メカには性能差のため太刀打ちすることができないとはいえ、歴戦の名機であることは事実であり、それが3機とか5機とか存在するだけで、通常は局地戦の行方を大きく左右するほどの決定的な戦力たりうるのです。本来ならおもちゃ会社の論理からははずれているのに、敢えて同じ敵メカを登場させ続けた、そこがまず凄いです。
それから、背景をかなり作り込んであるのに、実際に番組で描写されるのがその一部であるというのが評価されます。これは最近の作品では当たり前なのでしょうが、当時はそうじゃなかったわけです。しかも、作った作品世界を全部見せないのが凝ってます。敵と味方が、お互いの最重要戦線で最新鋭兵器をぶつけあっているわけではなく、あくまで多正面戦争の中での局地戦でしかないのです。また、作品の局面に至るまで、既に半年以上の戦争がなされていたにも関わらず、その経緯については断片的な言葉が出てくるだけで、具体的な説明がほとんど登場しません。これは、戦国時代舞台にしたドラマで、信長や秀吉が主人公で話が進んでいるところに、応仁の乱がとか、足利将軍がとか、信玄や謙信がとか説明なしにはさみこまれるようなもので、世界が立体的になります。とはいえ、これもやり過ぎるのは禁物で、いたずらに複雑すぎると誰もついてこないのです。映画評で時々書いていますが、最初の20分である程度世界が把握できないと多くの観客は集中力が切れると信じています。プロットを複雑にするのも結構ですが、わけがわからなくなるとペケです。このアニメでも、作り過ぎ・語らな過ぎに見えなくもないのですが、主人公が辿る道筋はなるべく単純にしておくことで、普通のひとはそれなりに楽しめ、そうでない人はディープに研究をしたくなるような絶妙のバランスになっています。
そんなわけで、テレビで最初に放映されたシリーズは、「一年戦争」と呼ばれ、1/3に始まって12/31に停戦するまでの戦役のうち、最後の3ヶ月程度を描写しています。ここで個人的な文句を言ってよければ、1年にこだわったのはとても問題であり、常識的に考えて最後の数ヶ月で考えられないような生産と作戦がなされているのは理解が困難です。普通あれだけの戦力を動かす作戦を行うならば、攻勢側は1週間以上かけて立案から戦力の集結と補給を行う筈であって、それが小部隊の戦闘でもあるかのように数日単位で局面が変わっていくのはおかしな話。しかも敵側の兵器の開発速度がただでなく、次から次へと新兵器を開発しては試作機を実戦投入してやられていく、というのがシリーズ前半の少ない旧式機でやりくりというのから離れていっています。もちろん、多彩な試作機の少数実戦投入というのは、ナチスドイツも日本もやっていたことなので、それ自体を非難するつもりはないのですが、たかだか数ヶ月であれだけのモデル数というのは考えられません。
それはさておき、一年戦争というのはテレビのファーストシリーズの代名詞ともなっており、これを本のタイトルに持ってくると、アニメのタイトルを題名にかぶせるよりもちょっとマニアックに見えるのがミソです。内容もなかなかバランスがとれていて、テレビと映画における事実、公式設定、裏設定、ファンによる補完、製作時点での裏事情を上手にミックスしているので、「読めます」。
コアなファンには当然物足りないのでしょうが、映画版を数回見た程度だけれど好きだよ、という人には楽しめるのではないでしょうか。無論、同じような趣向の本がたくさん出ているらしく、恐らくその内容はかなり重なっていることが予想されます。読み比べてみないと、どの謎本がベストなのかはわからないんですが、構成や書き方から察する限り、この本はなかなかいい線行きそうな気がします。ただ残念ながら「通常の三倍」かどうかは判断できません。