「がんの治療」の本を読んで
野津真治
われわれにいずれ訪れる病は「ぼけ」か「がん」のどちらかであるケースが多い。なぜか「がん」だけが非常に怖れられている。そのためがんにならないように、がんで死なないようにという国民の期待が、がんの研究者やがんの医療関係に向けられている。ところが日本におけるがんの死亡者は、1992年には年間で23万人にのぼり、この数は減るどころか今後も増加をつづけ、死亡原因トップの状態は今後数十年続くと思う。おそらく人間は、いつまでも、がんとのかかわりなしに暮らすことはできないのではないだろか。
がんのことを少しでもよく知り、がんを恐れず、かりにがんになってもこれに適切に対応していく知恵をそなえ、人間一人一人が賢く生きていきたいということである。
この本を読みながら考えたことは、いまや「がん」は医者でけが考える問題ではなく、またすべてを医者にまかせてしまっていい問題ではないということである。もちろん「がん」は医学上の問題ではあるが、同時にわれわれの一人一人の問題にもなっているのではないだろうか。それだけに「がんの予防」も「がんの治療」も積極的にわれわれ自身の身近な問題として取り入れ、われわれ一人一人がもっと賢くなっていかなければならないようにと思う。
この本でまず第1章で「がんという病気」がどういうものであり、それがどのように理解されているか、がんというものの一つの新しい生物としての行動様式から、これががんの治療法や治療成績にどのようにかかわってくるかを紹介した。第1章は本の導入部でありながら、いくらむずかしい内容になっているかもしれないが、この章を理解すると、このあとのがんの治療の本質がわかるのである。
第2章では実際の「がん治療の現在」について、外科療法にはじまり、放射線療法、化学療法、免疫療法などを紹介し、どのような場合にどのような治療がのぞましいかについて紹介している。といっても読者の大部分は医学に直接かかわりの少ない方々と思うので、医学的に興味のある専門内容を割愛せざるを得ないことも少なくなかった。しかし末梢に走らず、治療の骨組みだけを紹介していた。
第3章では、個々の「臓器別のがん治療」を、第1章に書かれたことをベースにして、がんの原因、症状、病理、診断、治療など主だったポイントをあげて説明し、個々の臓器がんの特徴を簡単に説明していた。
第4章では「新しい試み」として、いま進められている最先端の治療法の研究開発のいくつかについて、原理、実際、見通しを紹介したところであった。
第5章では「これからの課題」として、がんの告知、患者のケアから経済問題に至るがんの治療にかかわる人間とか人間社会のいくつかの問題を紹介した。また、がんの予防に関する新しいアプローチが、がん治療の分野に深くかかわるようになってきたので、この方面の新しい情報も紹介してあった。今後ののぞましいがん治療のあり方は、がん予防を前向きに考える気持ちのなかから生まれてくるように思う。
いずれにしても、「がん」をよく知ることによって、自らに訪れるかもしれない「がん」とうまくつきあい、賢い人間、賢い患者になることによって幸せな人生を描いていくようにと思う。
一般人に対しても、個人のプライバシーを尊重した上で、生活をうまく改善していくように啓発することは、がん発生の低下の効果をもたらすものと期待できる。すでにアメリカ、イギリスにおける禁煙運動の効果は肺がんの減少として示されているし、古くはかつての結核に対する栄養指導の効果が結核発症の遅延、症状の改善として示されている。ちなみに欧米のがん教育は、一般成人に対してだけでなく、小中高生に対しても行われている。そのカリキュラムは、彼らにこれほどまで必要かと思われるくらい充実したものである。このような地味な息の長い努力は、いつかがんの解決に大きく貢献すると思う。

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