『灰色やしきのネズミたち』の前に書こうと思っていたのですが、順序が逆になってしまいました。息抜きに子どもの本をご紹介させてください。
これは、上の子が小学生だった頃、自分で選んで買ってきて気に入っていた本です。(子どもたちが自分で本を読めるようになり、休日に家族で街へ出るのをまだ恥ずかしがらなかった一時期、たまに「子どもの本」の店に出かけてそれぞれ自分で選んだ本を買うことにしていました。子どもたちには「自分で選んで買った本」は格別だったようです。)昔から彼らのお勧めはたいていすぐに読むのですが(漫画は専ら少年ものです)、なぜかこの本は今まできちんと読んだことがありませんでした。先日初めて読みました。じわーっとあったまる本でした。小さなおはなしが5つ入っています。著者のカニンガムさんは1916年生まれの女性です。
テーマのはっきりした本も好きですが、どこにでもありそうなストーリーの中に大事なことが書いてあり、胸にふわっと温かいものの広がるこういう本も好きです。大好きなドロシー・バトラーさん(『クシュラの奇跡』を書かれた方です)の言葉を思い出しました。
「手をのばして人生のよろこびをつかむと同時に、苦悩と相対し、折り合っていくために、子どもたちは強く、柔軟で、愛し、笑うことができるよう、成長しなければなりません。よい本は子どもたちを助け、それを可能にします」(『5歳から8歳まで』より)
『やりとげた約束』から少しご紹介させてください。ふくろうに捕まり、巣穴で震えていたメイビーとハツカネズミは、モモンガの背に乗せてもらって奇跡的に地上に降りることができたのですが、見返りにモモンガが要求したのは、明朝までにくるみを百個集めてモモンガの貯蔵庫に運ぶことでした。ハツカネズミが姿を消してしまい、メイビーが一人ぼっちになったところからです。(最後に出てくるキツネはメイビーの親友です。出会ってすぐに「目の見える」小さなもぐらを騙して利用しようとしたキツネは、相手が心底自分を信頼してくれているのを見て胸を打たれて親友になってしまいます)
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いま住んでいる土地は平和で、よい香りがします。それを鼻で味わおうとして、メイビーはきちんとすわりました。これが最後かもしれません。そして、においをかげばかぐほど、メイビーは絶望に近づいていきました。
ぼくはだれ?ぼくはなに?なんでもない。ただのモグラのメイビー。“モール”ということばが、“ボール”のように、心の中をころがっていくように思えました。空どうのボールです。メイビーはもうほとんど希望が感じられないところまできていたのでした。
そのとき、とつぜん、“モール”ということばが、頭の中で、とても大きくひびいたのです。モグラ・・・。ぼくはモグラなんだ!
あんまりいきおいよく土の中につっこんでいったので、ほこりが30センチも空中にとびちりましたが、メイビーはトンネルをほりはじめました。どんどん、どんどん、深く、深く・・・。トンネルはゆるい傾斜で下におりていっており、トンネルのかべは、パイプのようになめらかです。
メイビーは、お昼になると手をとめて、あつめておいた地虫を食べました。それから、また仕事をつづけました。まったくスピードをおとさずに・・・。
うす暗くなったころ、メイビーは、トンネルの方向をチェックしようと、外に出ました。頭が、地上にはえているクローバにさわったとき、メイビーは、また、見たのです。フクロウの目がぎらぎらと黄色にかがやくのを。そのひろげた羽が、がたがたふるえている、小さな草原の生きものを、すくいあげるのを。
メイビーは土の下へにげ、はたらきつづけました。モモンガのカシの木まで、もう半分以上近づいていました。
夜明けの1時間前、メイビーは仕事をおえました。つかれているのにもかまわず、メイビーはトンネルをかけもどってクルミの木のところへいき、クルミをはこびだしはじめました。一つ、また一つと、クルミをトンネルの中へなげこみ、クルミが下のほうへころがっていくのを見まもりました。そして、ちょうど百までかんじょうすると、最後の百個目をおいかけました。
しかし、トンネルのむこうはしについたとき、メイビーは、考えに入れておかなかったことがあるのに、気がついたのです。クルミはつみあげられており、その最後のところにメイビーがいます。そして、相手のいのちをうばおうと、注意深くねらっているフクロウの前に身をさらさなければ、クルミを外にもち出す方法はないのです!
危険をおかさねばならないでしょう。でも、メイビーが、希望を失ったためにいたむ足でもって、トンネルをひろげはじめるまえに、小さく歌声がするのが聞こえました。最初のクルミが顔を出している、トンネルの出口から・・・。
「おーい、下のやつ!」ハツカネズミのキイキイ声がおりてきました。「力いっぱい、クルミをおしてくれよ。ぼくが、カシの木の根もとに、クルミをつんでいくから。モモンガのやつが、じぶんで貯蔵穴にしまえるよ。あのなまけものめ!」
「フクロウに気をつけてよね!」メイビーは、さけび返しました。「ぼく、あいつを見たんだよ!」
「このチャンスにやらなくちゃ!」
トンネルから最初のクルミをかかえあげながら、ハツカネズミはこたえました。
「ぼくは、あの歌を最後までうたいおわったぜ、モグラくん。」ハツカネズミは、クルミをなげるあいまに、宣言しました。「聞きたいかい?だれかのためにうたったほうがいいんだ、聞いてくれる相手がいるときはね。」
「うたってよ!」
メイビーは、ハツカネズミをはげましました。この勇敢な小さい動物に、じゅずつなぎになったクルミをおしやるだけでなく、それ以上のことができたら・・・とねがいながら。
「じゃあ、うたうよ。“しっぽの歌”」
ぼくは しっぽで たたいちゃう
怒りを
心配を
通り雨を
突風を
長い すてきな しっぽだぞ
しっぽで いつも うまくいく
ハツカネズミは、歌をうたいおわりました。もう一度うたいました。それから、「この歌、すきだろ?」ときくためにひと休みして、またまたうたいました。そして、リサイタルのあいだじゅうずっと、クルミはかきまわされながらトンネルを出ていき、カシの木の根っこのあいだに、高くつみあげられました。
最後の6個がメイビーといっしょに、地上へころがりでたときです。空をひきさくような金切り声が、静けさをやぶりました。メイビーは、大きな茶色の羽がおりてくるのを、ちらっとみました。
メイビーは、ハツカネズミのしっぽをひっぱって、クルミの山の中へ、いっしょにとびこみました。この動くひなん小屋が、まったくひなん小屋の役目をはたさず、フクロウがふたりを両方ともつかみあげて殺してしまうだろう、ということは、わかっていました。
メイビーは、ハツカネズミの上におおいかぶさって、ふるえながら、カーブしたつめが自分をひきさき、殺すのを、まちました。
すると、そのかわりに、ばかでかいまくらが、ぱたんと上に落っこちてきたように思えたのです。メイビーは、本能的にもがいて、じぶんの上にあるやわらかいものから、のがれようとしました。ハツカネズミのしっぽをひっぱったまま。メイビーは、トンネルの口にむかってすすみ、ほとんど完全に土の中にかくれたとたん、思い切って、外をのぞいてみました。
そこには怪物フクロウが横たわり、ハアハアいっていました。ころころしているクルミの中に落ちたので、クルミにおしつぶされてしまったのです。
フクロウはよろよろと立ちあがり、おそろしい目つきであたりをじろっと見まわすと、きずついた羽をバタバタいわせ、また空にとびあがりました。
それからしばらくたって、ふたりの動物は、キツネの巣穴の中に、いごこちよくすわっていました。メイビーは、じぶんのよりすこし小さいハツカネズミの目をのぞきこみ、にっこりしました。
「きみは英雄みたいなものだよ、ね?」
メイビーは、ちょっとはにかみながら、いいました。
ハツカネズミはうなずき、たいへん感謝の念をこめてほほえみ返すというお返しをしたものですから、メイビーは目をそらさねばなりませんでした。けれど、ハツカネズミがいったのは、これだけでした。
「しっぽにたすけてもらったのさ、ぼくは。ぼくの歌をもういちど聞きたいだろ?」
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『メイビーと森のなかまたち』ジュリア・カニンガム 八木田宜子訳(あかね書房)
『クシュラの奇跡』ドロシー・バトラー 百々佑利子訳 (のら書店)
『5歳から8歳まで 子どもたちと本の世界』ドロシー・バトラー 百々佑利子訳 (のら書店)