新聞やテレビで大事なことが報道されないと思い始めたのはいつからだったのか、思い出せないのですが、初めは「もっと大きく出してよ」という感じだったのが、だんだん「もう期待できない」という諦めに変わってきました。
ジャーナリズムは何をしてるのかと最初はただ腹を立てていたのですが、ブログを続けているうちに、少し考えが変わってきました。
今の報道がほとんど政権よりになっていて、政府にとって都合の悪いニュースが流されにくくなっているのは事実だと思います。制度の問題に加えて、記者が上司から圧力をかけられたり、自己規制したりしているのだろうと単純に考えていましたが、沖縄の問題については、もうずっと昔からこの状態が続いていたのだと、今になって気づきました。
今はインターネットのおかげで、簡単に沖縄の情報を知ることができて、先日のF15墜落事故でさえニュースで流されないことに驚き、報道がいかに偏っているかを知ることができるのですが、インターネットがなければ、私は今も沖縄の問題についてほとんど知らずにいたでしょう。
もう1つ気づいたことは、私がジャーナリストという人たちに抱いていた幻想についてです。これまでは当然のように、ジャーナリストというものは、弱者の声に耳を傾け権力の不正を追求するのを使命と考える高い志を持った人たちだと思い込んでいて、そうあるべきなのに、そうでないジャーナリズムに失望していましたが、どう考えても社会全体のモラルの低下が否めない状況で、ジャーナリズムの世界だけが、聖域のように他の社会から切り離されて、高いモラルを維持し続けることは不可能ではないかと思うようになりました。
ジャーナリストになるといっても、生まれたときから特別な育てられ方をするわけではありません。私と同じようにある家庭に生まれて学校に通い、社会の中で成長した人たちです。新聞社の入社試験に合格する方はきっと優秀な方たちでしょうが、大学を卒業して、入社試験を受けて企業に採用されるという点では、他の職業と同じです。ジャーナリストを目指す以上は、きっと多くの方たちが高い理想に燃えておられることでしょうが、中には単にかっこよさから選ぶ人もいるかもしれませんし、良い成績を取って良い会社に入るのが幸せだという考えで、名のある企業を選ぶ人もいるかもしれません。
ジャーナリストになってからも、高い理想を持ち続けて努力する人とそうでない人が出てくるのは、他の職業に就く人たちと同じではないか。ジャーナリズムの質の低下は、私たちの社会全体の質の低下を映し出しているのではないかと思うようになったのです。結局はやはり個人の問題で、それでも圧力に負けずに抵抗しようと考える人たちが多ければ、本当に大事なことが伝えられるのでしょうし、そういう人が少なくなれば、ただインパクトの強いニュースのみが流されることになり、それが続けば、何が大事で何が大事でないかの見極めのつかない人たちも出てくるのではないか。そして、こういう傾向は、今のような危機的な状況においては、よけいに際立ってくるのではないか。・・・だから仕方ないのだと思ってはいませんが、一口に先生といっても色々で、生徒を平気で苦しめる人たちがいたり、医者の中にも金儲けに走る人たちがいたりするのと同じことではないかと、最近はそんな気持ちになっています。
松沢さんの『フジサンケイ帝国の内乱』(社会評論社)は、こうした私の漠たる疑問に確かな答えをくれただけでなく、産経新聞の信じがたい現実を含めて、日本のジャーナリズムについて多くを教えてくれました。「文字どおり世論のリーディングカンパニーの位置にある朝日新聞も『非戦の戦後』に最終的な終止符を打つ、このイラク戦争に対して腰の引けた反対論しか提示できていない」現状を鋭く分析されている『企業ジャーナリズム批判の原理』からは特に学ぶところが大きかったです。国鉄民営化についても、私はほとんど知らなかったので、とても勉強になりました。
けれど、この本の価値は、単にそうした資料的側面のみにあるわけではありません。権力の不正に突然職を奪われ、働けぬ労働者となった松沢さんが、その不正を正し、職場に復帰するために、12年にも及ぶ長い苦しい裁判を今もなお闘っておられる真摯なお姿に強く心を打たれました。苦悩の中から見出された闘いの意味について書いておられる最後の文章は殊に胸に迫り、何度も読み返さすにはいられませんでした。こういう方こそが今求められているジャーナリストだと思うのに、その方が書く場所を奪われています。(2004年の株主総会への質問状で、教科書問題についても質しておられます。)正しいことをしている人が、いわれのない罪に問われて理不尽な弾圧を受けている──東京の先生方と重なります。
前書きと、松沢さんの確かな視点を感じられる記事から少しだけご紹介させてください。
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『青春の自己』への回帰──まえがきに代えて
・・・(略)・・・・・
フジテレビVSライブドア騒動が賑やかに繰り広げられていた傍らで、企業ジャーナリズムとしてのメディアは、今、大きな岐路に立たされている。どの道を辿るかを決めるのは、深層における民衆意識の変化だ。それは、インターネットとの融合というようなハードのレベルの話ばかりではない。まさに「戦争か、平和か」「自由か、抑圧か」など、この社会の帰趨を決するテーマが問われているのだ。そこには、「米国一辺倒か、アジアへの眼差しか」の問いかけも介在してこよう。
(略)
「表現者か、行動者か」──これが、青春の私にとって解き得ないテーマだった。今、生活の手段を奪われた者として行動するほかない私は、「表現者と行動者の合一」という課題にも答えを見出せたのかもしれない。私は、客観主義を宗旨とするジャーナリストとしてではなく、職を奪われてもがき苦しむ生身そのものを曝して、この報告を書いた。
この書は、社会評論社の卓抜な編集者である新孝一さんの御努力なしには、誕生しえなかった。この12年間に、私がいくつかの雑誌・新聞などに書いた記事、論文(一部はペンネーム。労組の仲間の名前で発表)や、講演速記録などから、新さんが、テーマごとに再構成したものを、私が改めて加筆・修正するという方法で完成にこぎつけた。原形をほとんどとどめないまでに改変してあるので、一部の例外を除いて紙・誌名は省略した。ジャーナリズムの現在に疑念を抱くひと、そして誰よりも、厳しさを増す現実社会の中で、苦しみに沈むひとにこそ、読んでもらいたいと念じている。
なお、文中では基本的に敬称を略す形をとった。
6月29日のフジテレビ株主総会に向けての闘いを準備するなかで記す。
2005年6月13日
松沢 弘
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『会社をやめさせられた父親と会社にも入れない娘、息子たち』より
私は、生活の糧を得る手段のひとつとして、東京の私立大学で非常勤講師をしているが、04年までの実情を見ると、私の目から見たら非常に優秀だと思われる学生たちは、かえって希望する職種や企業になかなか就職できない。その一方で、内定をたくさん取る学生がいる。彼らには共通点がある。現役で入った、顔が可愛い、見るからに従順そうな態度をしている、ものの言い方もおとなしい、もちろん成績もいい、少しスポーツ同好会をやっている・・・男子学生で言えば、そういう人が内定を3つも4つも取るのだ。
私が「この人はいいな」と感じる学生、つまり私の言うことなど全然聞かない、食い下がってきて反論する、レポートに私の批判を遠慮なく書く、そういう元気のいい学生は、企業や役所に受け入れられず、希望通りに就職できないのが実情だ。大企業がリストラによるコスト削減で業績を急回復させた05年は、情勢が一変した。人を減らしすぎた各社が、今度はあわてて新卒採用の拡大に走ったからだ。学生たちは「バブル期に匹敵するか、それを上まわるほどの売り手市場になっているのではないか」と感じているようだ。しかし、バブル期に大量採用された学生が、その直後に襲ってきた大不況の中で、「バブリーズ」と揶揄されて20歳代なかばで相次いでリストラされた事実も、彼らはしっかりと見据えている。05年の就職活況が、いつまでも続くとはみていないのだ。
(p254-255)
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松沢弘(まつざわ・ひろし)
1946年、横浜市で生まれる
1971年 早稲田大学第一文学部仏文科卒業。同年、フジサンケイグループの経済産業紙・日本工業新聞社(現紙名・フジサンケイ ビジネスアイ)に入社。大蔵省(現・財務省)、通産省(現・経済産業省)、日銀(銀行・生保業界を含む)をはじめ、鉄鋼、エネルギー(石油、電力、原子力)、繊維、紙パルプ、科学、電機・エレクトロニクス等の各産業を担当。1978年から1986年まで産経新聞社経済部記者を兼務。デスク(部次長)、編集委員、論説委員(金融・財政担当)を歴任。この間、産経労組員として、執行部の「超御用組合路線」と対決し、職場委員、選挙管理委員、大会代議員、労使協議会委員などに選出された。
1994年1月、リストラと闘うため、マスコミ界初の合同労組・反リストラ産経労を結成して、委員長に就任。同年9月、懲戒解雇。2002年5月、東京地裁で全面勝訴、2003年2月、東京高裁で逆転敗訴。現在、最高裁に上告中。東京都地方労働委員会では、不当労働行為救済命令を待っている段階。
1996年から1998年まで、朝日新聞社の科学雑誌「SCIaS」(サイアス)の嘱託記者。
1997年度から2001年度まで中央大学商学部兼任講師(ベンチャービジネス論など)。
2000年度から、中央大学経済学部兼任講師(先端産業論)を兼務し、現在に至る。
共著に『日本経済がわかる』(毎日新聞記者との分担執筆。中央経済社)、『ひとりでも闘える労働組合読本』(著者名はミドルネット。東京管理職ユニオン、セメダイン管理職組合幹部らとの分担執筆。緑風出版)など。ビデオに「リストラとたたかう男 フジ産経グループ記者・松沢弘」(制作=ビデオプレス)がある。
反リストラ産経労のHP「フジテレビ・産経新聞の真相」
http://www006.upp.so-net.ne.jp/fujisankei/
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今HPを見てみたら、まえがきと目次が全部出てました。略歴も。。。書く必要なかったですねぇ(笑)。
(この本が発行されたのは、2005年6月29日なので、今ニュースになっているライブドアの問題に関しては書いてありませんが、フジテレビだけでなく、ライブドアの企業体質にも問題があることは、すでに指摘しておられます。)
書評も全部出ています。