2015/8/24

様々な樹々とラブフルート  ラブフルート

工房を始めてから、これまでにおよそ50種類の樹種でラブフルートを製作してきました。自然な流れの中で、小さな工房にやって来た樹々たちは、それぞれ個性ある響きを伝えてくれました。樹々の種類全体からすれば、ほんのわずかでしかありませんが、樹種を増やす事が目的にしているわけではありません。その時々にやってきた出会いの結果です。

樹種を特定せず、可能性を感じながらの製作から、様々なことを受け取って来ました。現在までの経験から感じているのは、高級で希少な樹種がかならずしも優れているわけではないということです。

希少な樹種も地域的な特性があります。また、樹種として希少ではなくても、様々な要素が含まれていることで希少とされるものもあります。

希少というニュアンスは誇張され過ぎないほうが良いでしょう。量産され、入手しやすい樹種というだけで希少性が無いとされやすいのですが、どうでしょう。たくさんの人が集まっていると、一人の存在が軽視されやすいのですが、ひとりの存在価値は数量との比率で決まるものでは無いでしょう。

どの樹種であれ、個性があり貴重な存在であるのだと思います。一片の樹木から木の全体を感じ、自然と一体化した生育のプロセスを感じ、さらに時を遡り、森や大地を受け取る。こうして木の断片が伝えてくれる事実を、じっくりと感じることが笛が生まれる前の大切な時間になります。

どのような樹木であれ、長い時間大地と繋がりながら生きて来たのですから、様々なストーリーを持っているでしょう。それは笛という姿に変わることで、新たな語り掛けを始めるでしょう。

自分が操る笛という視点から、木から生まれた笛のささやきに心を傾け、自らの内側にある思いに触れることになるかも知れません。

樹種の個性は、その特有の響きを感じながら、響きが生かされるような笛の作り方との繋がりがポイントかと思います。低音域から高音域、それぞれの共鳴の特性を感じること、それぞれの管体の厚みや長さ、内径、全体の構造とバランス。さらにバードの形状による音質や共鳴の違い。

一本のラブフルートは、こうした見え無いプロセスを通りながら生まれてきます。どの樹種が優れているかではなく、樹種の個性がどのように生かされるか。その響きが個々の内面とどのような繋がりをもたらすのか。

個々人の呼吸が樹々に注がれ、響きが生まれるのですが、この呼吸の状態が内面と直結しているかどうか。呼吸という肉体の動きと内面が限りなくひとつになり、それが樹々と一体化する。その状態が、周囲の空気を揺らし、自分が操る笛という視点から、木から生まれた笛のささやきに心を傾け、自らの内側にある思いに触れることになるかも知れません。音の波と心の揺らぎが不思議な繋がりになり空間を満たします。

これは音を生み出す様々な世界に共通している要素ですが、取り分けラブフルートの構造は音の響きの本質性を現す特殊な形状を持っています。作り手はその構造が意味するところを大切なポイントとして向き合う事になります。

音が出て、よく鳴る笛を作るという視点もあるのですが、個人的には前に出過ぎる響きはやや苦手です。出過ぎないようにセーブする意識が働くと、内面と繋がるよりも音をコントロールことに意識が向きやすくなりがちです。勿論、力強い響きや明るい響きのものや中間的な響きも手掛けていますし、いう響きが欲しくなる時もあります。

古い時代のラブフルートがクローズドであった事と、いまのこの時代が求めている事がどのように繋がるかは分かりません。古い時代の人々の内面と現代に生きる人々の本質に果たして違いがあるのか、表層的な現象の内奥に共通するものはどうなのか。そんな問いかけも生まれて来ます。

数百年もしくはそれ以上の年月を生きる樹々と人のいのちが繋がり、響きとなり歌となる瞬間。ラブフルートが、いのちの循環を象徴する構造であり、微細な内面の揺らぎを透明な空気の波となり、空間の造形となり、自分自身は元より、周囲の人々を音の揺らぎでと包み込む。自分の稚拙な認識が、樹々のメッセージを妨げず、そっと心を傾けられるように…。

様々な樹々が囁きかける声を受取った人々が、それぞれのメッセージを携えながら出会いの旅を続ける。微力ではあるけれど、旅の杖として少しお役に立てれば感謝です。ラブフルートは、こうした認識や体験、演奏、ワークショップ、レッスンを継続しながらゆっくりと熟成されて来たように思います。


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