三一 蘇我邸跡
日嗣論じ居む聲末見ぬ世頃漏れ踏む眼を鬼投げん太刀ならめ
大和には蘇我入鹿の邸(跡掘り出で枉げて傳ふる音あれ
思ほえぬ御世わざはひをうちうねり井湧く瀬瀬冴え行方搖す空邊
ひつきろんしゐむこゑすゑみぬよころへもれふむめをおになけんたちならめやまとにはそかのいるかのやしきあとほりいてまけてつたふるねあれおもほえぬみよわさはひをうちうねりゐわくせせさえゆくへゆすそら
三二 話題
話題寒げな頃を見舞はむ音のそぞろ濡れ居む地故嘔氣落ち思ふ
日嗣らをいくつすり替へ經しものと危ぶみながら氷雨に佇てり
泡饐えてうぬぼれ越えん音よ疎く寄る井に染ませ瀬掘る夢繪や
わたいさむけなころをみまはむねのそそろぬれゐんちゆゑはきけおちおもふひつきらをいくつすりかへへしものとあやふみなからひさめにたてりわすえてうぬほれこえんねようとくよるゐにしませせほるゆめゑや
三三 うつむろ
虚室鎖す内におぼめ分けいきり剥く身喉据ゑ眼割り怖氣行かさな
火を出せし部屋を開くれば姉妹倒れてゐぬる難波こがらし
聲もせで冬の魔陣ぞよろぼひつ狙へる域や見えぬ魔縁よ
うつむろさすうちにおほめわけいきりくむみのとすゑめわりおそけゆかさなひをたせしへやをあくれはあねいもとたふれてゐぬるなにはこからしこゑもせてふゆのまちんそよろほひつねらへるゐきやみえぬまえんよ
三四 石蕗の花
冴え搖り消えぬ音色踏む身へ誇らん世死ねぬ身褪せゐて埋め失す葉も
石蕗の咲ける日比谷の樟が下何たゆたへる我があけくれぞ
乙女らや走り笑むなれ大路地に待ち居て聲を寄せんを今ぞ
さえゆりきえぬねいろふむみへよほこらんよしねぬみあせゐてうつめうすはもつわのはなさけるひひやのくすかもとなにたゆたへるわかあけくれそおとめらやはしりゑむなれおほろちにまちゐてこゑをよせんをいまそ
*乙女らや走り笑むなれ 東京国際女子マラソンに声援を送つてゐる想定。
三五 露西亜語のかなし戀歌
露西亜語のかなし戀歌いろはもていひとりみんとおもふゆふべや
薄れ得ぬ音を馳せ居ん世故分け得む域に群るる血褒めやり、そよ音増せ
あらためて三種の假名を机邊に拔きつ忘るれ今朝間大空
ろしあこのかなしこひうたいろはもていひとりみんとおもふゆふへやうすれえぬねをはせゐんよゆゑわけえんゐきにむるるちほめやりそよねませあらためてみくさのかなをつくゑへにぬきてつわすれけさまおほそら
三六 野猫
冬透きてとほる日差に温まれる野猫や楡の落葉がほとり
杖失せ居たらむ世過ぎを癒えしめん色笑み居ぬ
明け映えて歩み分けむ日ながめやり落ち打つ百世競ふ沙汰なく
和を添へ迫らん巣へ寝頃
ふゆすきてとほるひさしにぬくまれるのねこやにれのおちはかほとりつゑうせゐたらむよをいえしめんいろゑみゐぬあけはえてあゆみわけむひなかめやりおちうつももよきそふさたなくわをそへせまらんすへねころ
三七 蝋の火
蝋の火は盡きなんとして傳へ來るものを目守りて常世路にゐむ
わが身無援なるを病まず笛愁へゐし世頃巖裂け朝風暮靄
お空目に夢渡す繪ぞ失せぬ音や撰りひろげぬれ奧雪峰路
らふのひはつきなんとしてつたへくるものをまもりてとこよちにゐむわかみむゑんなるをやますふえうれへゐしよころいはほさけあさかせほあいおそらめにゆめわたすゑそうせぬねやえりひろけぬれおくゆきみねち
三八 富籤
世色寒氣故せめて越え醉ふ有爲路、日向掘り襲ふ言葉もも守る巣
富籤を買ひ寄る列に君や我はかなき夢を漁りあらそへ
街へ拔け寝ぬらむ色や辻にゐて骨浮く縁の渡す恩の瀬
よいろさむけゆゑせめてこえゑふうゐちひなたほりおそふことはまもるすとみくしをかひよるれつにきみやわれはかなきゆめをあさりあらそへまちへぬけねぬらむいろやつしにゐてほねうくえんのわたすおんのせ
三九 身知らず
妻捨て姉へなびく男が論議去り見榮搖せ老いゐる威のほぼ病む眼
身知らずに國のかたちをあげつらふ徒ぞはびこりて世はうそ寒し
色消せぬ智慧迷へるや植ゑん胤消えぬ名おもふ我々燃ゆ眼
つますてあねへなひくをとこかろんきさりみえゆせおいゐるゐのほほやむめみしらすにくにのかたちをあけつらふとそはひこりてよはうそさむしいろけせぬちゑまよへるやうゑんたねきえぬなおもふわれわれもゆめ
四〇 初白鳥
明日搖る音祕めぬ聲ら沸き居む世おほふゆゑ悩む瀬へ埋め競り覆へ
白鳥の便り到れる空居冴え峰やけなげに忘れ得ぬ道
チンドンにかろがろしくも弄ぶ日嗣のことを今は申さじ
あすゆるねひめぬこゑらわきゐむよおほふゆゑなやむせへうつめせりおほへはくてうのたよりいたれるそらゐさえみねやけなけにわすれえぬみちちんとんにかろかろしくももてあそふひつきにのことをいまはまをさし