一 亡母の戀文
思ほえぬ母若き日の戀文を見出でうろたへ屠る炉の瀬に
と亡骸護り居し少女胸抉れ居ぬるを慰めんと
泡世さへ癒す聲あり縁染めし常路露むせたまゆらに消て
親氣逸れ
おもほえぬははわかきひのこひふみをみいてうろたへほふるろのせにとなきからまもりゐしせうちよむねゑくれゐぬるをなくさめんとあわよさへいやすこゑありえんそめしつねちつゆむせたまゆらにけておやけそれ
二 繪手紙
さすたけの友より越せる繪手紙を紅萩こぼるほとりにて讀む
今は縁得つゐぬや
露の間も忘れかぬれやうらなげき失せし音惜しみ色さへ侘び居ぬ
あふぐ空襲ふ念智慧宥め置く味祕め
さすたけのともよりこせるゑてかみをへにはきこほるほとりにてよむいまはえんえつゐぬやつゆのまもわすれかぬれやうらなけきうせしををしみいろさへわひゐぬあふくそらおそふねんちゑなためおくあちひめ
三 うたふるさと
我こころみゐぬる萎えぬ夢をば末世にまで添へ繼がせ得んや
陸奥をうたのふるさとにおほしたて遠世さしぐむ音色聞かんや
ひびきあふ荒地ゆ分け植ゑ空居澄めり今練らせけむ花も重り經つ
われこころみゐぬるなえぬゆめをはすゑよにまてそへつかせえんやみちのくをうたのふるさとにおほしたてとほよさしくむねいろきかんやひひきあふあれちゆわけうゑそらゐすめりいまねらせけむはなもおもりへつ
四 桃割れ
旅立つ前に塵拂はむとせし部屋隅より桃割れの女繪出ぬ
駆け落ちを諦め嫁ぐ祖母の眉煙れる風情ゆなほ添ふる艶
心根に押しひろめゐて冴え植う世閼伽井さわやぎ峰射拔く末
たひたつまへにちりはらはむとせいへやすみよりももわれのをんなゑてぬかけおちをあきらめとつくそほのまゆけむれるふせいゆなほそふるえんこころねにおしひろめゐてさえううよあかゐさわやきみねいぬくすゑ
五 皇統
皇女孫に天位履ませ居むとて無知なる輿論へお種操れど
皇神もつゆうけがへぬ筋よろふ惡醉ひ沖に白帆搖れ騒ぐや
蒼瀬憂き名を祈り裂く枝も生え根知らぬ聲の巖そそげり
ひめみまこにてんゐふませむとてむちなるよろんへおたねあやつれとすめかみもつゆうけかへぬすちよろふわるゑひおきにしらほゆれさわくやあをせうきなをいのりさくえたもはえねしらぬこゑのいはほそそけり
六 うつろ世
あやしまずあり經むものか冷めわけてよろぼふこれのうつろ世なれど
榮耀醉ひ過ぎぬるに散り積もる負ひ目祓はむと去年邊に見けん帆故
絶やさせぬわが身を委ね居ん沖ぞ塒無く今地を石伏せて
あやしますありへむものかさめわけてよろほふこれのうつろよなれとええうゑひすきぬるみにちりつもるおひめはらはむとこそへにみけんほゆゑたやさせぬわかみをゆたねゐむおきそねくらなくいまちをいしふせて
七 せうねん
今日も目覺め憂き縁へ居ぬれど、よろづ遠氣に無爲を落ち寝弱散り頃
少年の暴れたてこもる學舎にいかなるゆゑのありしや知らず
世紀まだ若くて行方見えぬ日をおほはむ空は誘ふ杖見ず
けふもめさめうきえんへゐぬれとむゐをおちねよろつとほけによわちりころせうねんのあれたてこもるまなひやにいかなるゆゑのありしやしらすせいきまたわかくてゆくへみえぬひをおほはむそらはさそふつゑみす
八 燕去り
來ぬを待つ女ゆゑ憎み侘び居て
燕去り雁まだはやき空に居て色得ぬたのみかけんといふや
似非幸ある村の晝寝、痴話憂しよ
コスモスぞおとろへゆけれ菊なほし四方天へ触れ植ゑおほせ寝む
こぬをまつをんなゆゑにくみわひゐてつはめさりかりまたはやきそらにゐていろえぬたのみかけんといふやえせさちあるむらのひるねちわうしよこすもすそおとろへゆけれきくなほしよもあめへふれうゑおほせねむ
九 ロケット
枯葉まだはやき路上を鬻ぎゐるロケットを手に何思ひ出し
便りすらなく遠さかる街空へ伴れ歩みけり娘の胸よ
違和和せぬ道越え愛おほふ笛の音も責めぬ聲を添へゆく
かれはまたはやきろしやうをひさきゐるろけつとをてになにおもひてしたよりすらなくとほさかるまちそらへつれあゆみけりむすめのむねよゐわわせぬみちこえあいおほふふえのねもせめぬこゑをそへゆく
一〇 レクヰエム
レクヰエム書けと迫られをののきつ作せる調べを涙し歌ふや
天透きて地貫ける音樂に醉ひ心魔縁へ率て遠去りぬ
そぞろ和す音に搖さぶり得む世々巖も老峰這ひ綾輪うち萌ゆ芽
れくゐえむかけとせまられをののきつなせるしらへをなみたしうたふやあめすきてつちぬけるおんかくにゑひこころまえんへゐてとほさりぬそそろわすねにゆさふりえむよよいはほもおいみねはひあやわうちもゆめ