八一 魔縁
有爲路失せぬ夢に魔縁へ遊ぶ頃、魚捨てぬ親等家路遠き
流れゆく屍時をりみひらく目聲もえたてず見守る我よ
渡しより望む鬼火の煙る尾根杖差し告げん褪せ滅ぶ威はや
うゐちうせぬゆめにまえんへあそふころいさなすてぬおやらいへちとほきなかれゆくかはねときをりみひらくめこゑもえたてすみまもるわれよわたしよりのそむおにひのけむるをねつゑさしつけんあせほろふゐはや
八二 オルフェウス
振り向くと見る間に妻が影遠のき黄泉路遙けき聲せぬ室居へ
思ひ色うねりつゆ奏せで平和おほふ宴に泡夢彩垂れ
殘されて居し世女ら裳裾捩ぢ蕩らし醉はすや慰め得ぬ日を
ふりむくとみるまにつまかかけとほのきよみちはるけきこゑせぬむろゐへおもひいろうねりつゆそうせてへいわおほふえんにあわゆめあやたれのこされてゐしよをんならもすそねちたらしゑはすやなくさめえぬひを
八三 寄夕雲戀
便り得ぬ身空怨ず氣の
雲何をおもひゐるかにわだかまりやうやくちぎれ夕日差す窓
あらはれて聲こそえせね色しるき永久の室邊へいざ率て寝むを
大淵瀬見つつ夢分けん帆よあな標めぬ迂
たよりえぬみそらゑんすけのくもなにをおもひゐるかにわたかまりやうやくちきれゆふひさすまとあらはれてこゑこそえせねいろしるきとはのむろへへいさゐてねむをおほふちせみつつゆめわけんほよあなしめぬう
八四 決鬪
ピストルをむざむざ空に撃ち過ごし今致命彈受けつくづほる
雲居來しわれかややがてはろばろと寄せ居ん峰間搖られ負ふ名ぞ
理無き世の喘ぎを冷え絶えぬ見ぬ目に仰せて醉ふ音も乘上げ醉へず
ひすとるをむさむさそらにうちすこしいまちめいたんうけつくつほるくもゐこしわれかややかてはろはろとよせゐんみねまゆられおふなそわりなきよのあへきをひえたえぬみぬめにおほせてゑふねものりあけゑへす
八五 寄星座戀
今つれなき娘恨み詠む
中空に蠍渡して踊り醉ふ今宵もともに相みつめゐん
落ち居得ぬ袷故黒毛寝ん炉の搖れ
射手失せし屋根間おほへる仔山羊をさへ屠る筋得ぬ渇く野畠
いまつれなきむすめうらみよむなかそらにさそりわたしてをとりゑふこよひもともにあひみつめゐんおちゐえぬあはせゆゑくろけねんろのゆれいてうせしやねまおほへるこやきをさへほふるすちえぬかわくのはたけ
八六 海開きに寄する戀
海開く朝の濱に雲癒えて沸き足らふごと君をぞ寄せん
逢へぬ常故降ろす夢に培へる縁、悩める位置を稀氣去りけれ。
潮はや聲遠去りぬ我が居む日面寄す色ぞ空船のせて
うみひらくあしたのはまにくもいえてわきたらふこときみをそよせんあへぬつねゆゑおろすゆめにつちかへるえんなやめるゐちをまれけさりけれうしほはやこゑとほさりぬわかゐむひおもよすいろそむなふねのせて
八七 ダンテ
ダンテ船路へ降り居招き負はせ祓ふ日々を色植ゑ冴え受けん闇
みそかごとせし群れを巻くつむじ拔けわれに近づくたわやめのあり
義弟御へ嫂ゆゑぞ赦すなき炎燃え居てもらさず寝ぬる夜
たんてふなちへおりゐまねきおはせはらふひひをいろうゑさえうけんやみみそかことせしむれをまくつむしぬけわれにちかつくたわやめのありいろとこへあによめゆゑそゆるすなきほのほもえゐてもらさすねぬるよ
* 神曲地獄篇第五章パオロとフランチェスカの件参照。
八八 マクベス
簒奪の咎おほひ得ぬ空色を揉む聲不氣味に居坐らむ音よ
妻既に狂ひ亡せぬる城めぐり森蠢かし敵影迫れば
跳ね遊ぶ魑魅の餌と居む我をさへ矢丈なほ行け老ゆ血綾綯へよ
さんたつのとかおほひえぬそらいろをもむこゑふきみにゐすわらむねよつますてにくるひうせぬるしろめくりもりうこめかしてきえいせまれははねあそふちみのゑとゐむわれをさへやたけなほゆけもむちあやなへよ
八九 たちあふひ
立葵まぼしむ辻にコスモスのはつか萌え出で胸ゆらぎせれ
故なく失せぬる少女待ち居て聲いや懼れひろげん寝醒めをあへり
螢かげ見えぬ世さへぞ御船遣り沸き沸く鬼とうら呪はん世
たちあふひまほしむつしにこすもすのはつかもえいてむなゆらきせれゆゑなくうせぬるせうちよまちゐてこゑいやおそれひろけんねさめをあへりほたるかけみえぬよさへそみふねやりわきわくおにとうらのろはんよ
九〇 麥畑 ゴッホ展に寄せ
鴉ゐる麥畑より狂ひたち燃やせし命我を襲へば
といみじき繪の前にゐて身もほどろ過ぐ我を誘ふ聲
天貫けつひろがり越えん眞屋根搖せ集め屠らん何撃てぬ音よ
冴え生む名老ゆ間
からすゐるむきはたけよりくるひたちもやせしいのちわれをおそへはといみしきゑのへにゐてみもほとろすくわれをおそふこゑあめぬけつひろかりこえんまやねゆせあつめほふらんなにうてぬねよさえうむなおゆま