七一 インカの王
インカの王囚はれて
黄金を部屋に充たしてあがなへる命をつひになぶり殺せる
大山も醉ひちぎれ居む絶えぬ夢招けば今朝もボロ笑む空搖り
傀儡押し寄せ笛とよみ拔き藍嶺すさめぬ巣ぞ
いんかのわうとらはれてわうこんをへやにみたしてあかなへるいのちをつひになふりころせるおほやまもゑひちきれゐむたえぬゆめまねけはけさもほろゑむそらゆりくくつおしよせふえとよみぬきあゐねすさめすそ
七二 査證 杉原千畝氏
カウナスの日夜査證を書き繼ぎて送れる人ら今は何処へ
虎の口拔け得し恩よ涙むせねもころ招け映えゐん朝へ
ほぼ明日見ぬ日をやり踏む世話故にわたるもろ夢ぞそに觸れゐて笑めり
かうなすのにちやさしようをかきつきておくれるひとらいまはいつこへとらのくちぬけえしおんよなみむたせねもころまねけはえゐんあさへほほあすみぬひをわたるもろゆめそそにふれゐてゑめり
七三 ルルド 聖女ベルナデット
おんすがたつぶさに吾は見しものを思ひはいまだ誘ふルルドへ
けがれなき宿りの聲に掘り湧く井病ひ癒えしめて失せぬ萬づ代
御旨空居ゆ得て天路明けむ頃据ゑゆく音失せぬ名を契らん帆へ
おんすかたつふさにわれはみしものをおもひはいまたさそふるるとへけかれなきやとりのこゑにほりわくゐやまひいえしめてうせぬよろつよみむねそらゐゆえてあまちあけむころすゑゆくねうせぬなをちきらんほへ
七四 いのち
人の命朝宵に迫ると聞けば
聲かぎりたづねもゐんをたらちねをながらへしめむ天つ藥や
大海も分け越え植ゑむ癒し草朧世ぞ夢ぬれゐて見えぬ瀬
搖すぶれる花輪天路へ添ふ
ひとのいのちあさよひにせまるときけはこゑかきりたつねもゐんをたらちもねをなからへしめむあまつくすりやおほうみもわけこえうゑむいやしくさおほろよそゆめぬれゐてみえぬせゆすふれるはなわてんろへそふ
七五 サロメ
母御そそのかすよりヘロデ王賜ふ盆を持ち
預言者の首にくちづけゆほびかに笑むやいみじき少女妖しな
面飢ゑつ衣擦れ亂る團欒室降り居て練らせゆれる笛させ
寝ぬ名へ愛越え睨め
ははこそそのかすよりへろてわうたまふほんをもちよけんさのくひにくちつけゆほひかにゑむやいみしきをとめあやしなおもうゑつきぬすれみたるまとゐむろおりゐてねらせゆれるふえさせふえねぬなへあいこえにらめ
七六 品定め後日
長雨絶えぬ夜に品定めせる
指食ひし君はこのほどさまかへて尼(にておはすうつろ世末を
癒えぬ胸空居曇れる聲分けりその裏切りも溺れ居ん音や
色ふふむ身を千露分け千歳經んや
なかあめたえぬよにしなさためせるゆひくひしきみはこのほとさまかへてあまにておはすうつろよすゑをいえぬむねくもれるそらゐこゑわけりそのうらきりもおほれゐんねやいろふふむみをちつゆわけちとせへんや
七七 綱渡り
綱渡り踏み誤りて地に墜つる超人山を下れる朝に
神死せればと聲降ろす夢もピエロ等の餌、四方意を捩ぢ背け受け。
回歸の世唱へ貫き映え居ん夕べ頬濡らせ居ん願ひこそ澄め
つなわたりふみあやまりてちにおつるてうしんやまをくたれるあさにかみしせれはとこゑおろすゆめもひえろらのゑさよもいをねちそむけうけくわいきのよとなへぬきはえゐんゆふへほほぬらせゐんねかひこそすめ
七八 プロメテウス
茴香の蕊にをさめてもたらせる火ゆゑいましめられて巖根に
大神の業盗み世々傳へんと禿鷲胸を抉る山中
そぞろ火燃えん地荒れお告げ唱へ屠り合ふ頃、無知越え掘り拔く雪。
うゐきやうのすゐにをさめてもたらせるひゆゑいましめられていはねにおほかみのわさぬすみよよつたへんとはけわしむねをゑくるやまなかそそろひもえんちあれおつけとなへほふりあふころむちこえほりぬくゆき
七九 夜と霧
夜と霧迫る間を林檎酒に醉ひ忘れ居ん消えぬ痛みや
憎む名を殺しても晴れ得ぬ胸よわが身塒へ襲ふ凶夢
怖氣埋め命なほ點す位置へ、うら呪ふ繪裂け、八百藍出させて。
よるときりせまるあはひをりんこしゆにゑひわすれゐんきえぬいたみやにくむなをころしてもはれえぬむねよわかみねくらへおそふまかゆめおそけうつめいのちなほともすゐちへうらのろふゑさけやほあゐたさせて
* 参照 レマルク「凱旋門」
八〇 ひとりの部屋
娘出で行ける故に聲もなく
朝濕る畳の上を稚き蝿よろぼふ見つつおもひさまよふ
くちなしの理に色痩せかねて浮き居ん空路溺れ得ぬ蓮
冷え蒼む屋根、負けぬ鳥居ん空競れ
むすめいてゆけるゆゑにこゑもなくあさしめるたたみのうへをわかきはへよろほふみつつおもひさまよふくちなしのことわりにいろやせかねてうきゐんそらちおほれえぬはすひえあをむやねまけぬとりゐんそらせれ