五一 くちづけ
うらなごみ晴れわたりたる空の下出遇ひ別れのさりげなくして
とくちづけ値頃にかはし娘笑み燃え覆ふ陽を射ん伊勢へ過ぎ行きぬ
眞藍染め降ろせる地に居ん世故寝ぬ間冴えむ帆八重呼ぶ魚や
うらなこみはれわたりたるそらのもとてあひわかれのさりけなくしてとくちつけねころにかはしむすめゑみもえおほふひをいんいせへすぎゆきぬまあゐそめおろせるつちにゐんよゆゑねぬまさむほやへよふうをや
五二 けやきわかば
伸びやかに欅若葉の下馳せゐむ青年等見てねもころおもふ
と散歩する夫婦聲あげ詠める
君我にいひ寄りし路地歩む空末結ふ名折れ立ち居て覺えぬ
さへづりうなづく間妻と添へ得ぬ苦
のひやかにけやきわかはのしたはせゐむせいねんらみてねもころおもふとさんほするめをこゑあけよめるきみわれにいひよりしろちあゆむそらすゑゆぬふなをれたちゐておほえぬさへつりうなつまつまとそへえぬく
五三 くさすえ
草饐えのなかに頬寄せむつめりし去年をおもへどかへらぬものを
と娘に嘆き寄せん身ぞ聲うつろ
君いまだわれ追ふ路地やうねる原わたれる朝音雲雀ぬけゐて
病ひゐし愛縁ゆゑ蝶ゆく地
くさすえのなかにほほよせむつめりしこそをおもへとかへらぬものをとむすめになけきよせんみそこゑうつろきみいまたわれおふろちやうねるはらわたれるあさねひはりぬけゐてやまひゐしあいえんゆゑてふゆくち
五四 ていとく
日露提督の曾孫あひ遭へば
敵味方越えつおもはむ未來への夢路さきがけゐぬる祖らを
行く末もためしにせんと据ゑわけつ潮鳴り船群れ世々を冴えゐん
失せぬ譽揃ふ謎割るうねりや
にちろていとくのひまこあひあへはてきみかたこえつおもはむみらいへのゆめちさきかけゐぬるおやらをゆくすゑのためしにせんとすゑわけつしほなれふねむれよよをさえゐんうせぬほまれそろふなそわるうねりや
五五 ようへい
傭兵の家族繪姿を見あらはして
心決めおもむく死地とおもへれど涙に和えて寝やらぬわれを
世の末に捧げゐん夢うち貫きつ色なほ臥せり笛練る山曲
本務日々馳せ居る間露殺げり
ようへいのかそくゑすかたをみあらはしてこころきめおもむくしちとおもへれとなみたにあえてねやらぬわれをよのすゑにささけゐんゆめうちぬきついろなほふせりふえねるやまわほんむひひはせゐるまつゆそけり
五六 うつろひ
いくさらを無きことにして經ぬる世もやうやく飽きてひた見む何ぞ
と世のうつろひを見つめゐぬれば
聲かわけほほけ佇ちゐむ夢さまし愛這ふ野良へ諸音賦する瀬
我が音澄ませ得ん智慧織り畏れ搖り得ん
いくさらをなきことにしてへぬるよもやうやくあきてひたみむなにそとよのうつろひをみつめゐぬれはこゑかわけほほけたちゐむゆめさましあいはふのらへもろねふるすせわかむねすませえんちゑおりおそれゆりえん
五七 ばらのめ
香に迫る薔薇の芽病みてあらむ日の思ひほどろに到るさみだれ
そこはかとなき懸念告げ居てなほ招く違和
うつろめく世を失せ得ぬもわれ故ぞおさへ据ゑ經ん愛得し夕をや
少し塵踏む世契りぬ
かにせまるはらのめやみてあらむひのおもひほとろにいたるさみたれそこはかとなきけねんつけゐてなほまねくゐわうつろめくよをうせえぬもわれゆゑそおさへすゑへんあいえしゆふをやすこしちりふむよちきりぬ
五八 あやめ
菖蒲浮く池につばくろひるがへりたちまち消ゆるまぼろしのなか
と便り得ぬ身を侘びゐてよめば
割れ井戸に水なほもれておもふ聲空知らすべき瀬瀬を浮け寝ん
愛笑む音の越ゆやおそふ縁盗む笹
あやめうくいけにつはくろひるかへりたちまちきゆるまほろしのなかとたよりえぬみをわひゐてよめはわれゐとにみつなほもれておもふこゑそらしらすへきせせをうけねんあいゑむねのこゆやおそふえんぬすむささ
五九 がくのはな
額の花咲ける通りにかたつむり這ひ居て妻を危ぶめるころ
既に寝取られゐしも知らず騒ぎおほふ街へ沿ひ歩む
癒え越えん寝ぬ夜みだれき色も笑み悩めせぬ地を植ゑん世の瀬ゆ
おぞく迂へ分け
かくのはなさけるとほりにかたつむりはひゐてつまをあやふめるころすてにねとられゐしもしらすさわきおほふまちへそひあゆむいえこえんねぬよみたれきいろもゑみなやめせぬちをうゑんよのせゆおそくうへわけ
六〇 えいじごろし
嬰児殺めし娘獄舎より救ひ出さんとヘボ悪魔の手を借れるも
裁かれて今居む路に心寄せ常の空居を思ふ身ぞなき
委ね醉ふ露に滅べる消えぬ罠うち貫け押せり植ゑ分けん原
えいしあやめしむすめひとやよりすくひたさんとへほあくまのてをかれるもさはかれていまゐむみちにここ
ろよせつねのそらゐをおもふみそなきゆたねゑふつゆにほろへるきえぬわなうちぬけおせりうゑわけんはら