韻文小説 その二 歌物語
うつしみ
おとつれ
昔男忍び通ひける女へ、
あやにくの空色さへぐ昨日今日
參り得ぬ吾なほうらみずよ
應ふる歌
天地もつまぬ目据ゑて色和せん
君思はん音搖り居て寝まれ
大宿路榮えそさせ
むかしをとこしのひかよひけるをんなのもとへあやにくのそらいろさへくきのふけふまゐりえぬわれなほうらみすよあめつちもつまぬめすゑていろわせんきみおもはんねゆりゐてねまれおほやとちはえそさせをうらみたまはてこたへてよめるうちさわくそらさへたえぬおとつれはきみあもはむねゆりゆすころもつほねゑみゐてすゑなえぬちゑあやめうたせんいほ
ほれくすり
惚れ藥買へとて迫る商人を追ひやり繪扇に書ける歌
心根の千枝にさしくむ芽もそそろ濡れ居ん今を忘らえて居ぬ
笑む花の破らぬ定め根も落ち居行方結はせん五百世しむ身よ
さつけし雛
ほれくすりかへとてせまるあきうとをおひやりゑあふきにかけるうたこころねのちえにさしくむめもそそろぬれゐんいまをわすらえてゐぬゑむはなのやふらぬさためねもおちゐゆくへゆはせんいほよしむみよさつけしひな
世の常
娘子は小袖簪かふ代に
むさき仕丁(よぼろ)に肌ゆるすとや
と嘆き詠めるを笑み招く世の常吾も侘びつつ老いぬ
舞ひ和えで植ゑ得ぬ空や有爲路折り愛塞く野邊へ今日なほおもへ
誰利せん
むすめこはこそてかんさしかふしろにむさきよほろにはたゆるすとやとなけきよめるをゑみまねくよのつねわれもわひつつおいぬまひあえてうゑえぬそらやうゐちをりあいせくのらへけふなほまゐれたれりせん
仕丁(よほろ)よぼろ 古代朝廷の課役に従事した成年男子。援助交際といふものを古代めかして諷せしまで。

かぜのたより
朝宵にゆかしみ眺めし娘賣僧に賣られて孕みたりと聞けば
そぞろ憂き夜寒おほへる閏分けつ
聲居てつのる我越え得ぬ瀬
落ち居寝ぬ雲も醉ふ間を色仇せん
行方遠野や汝火を振り
あさよひにゆかしみなかめしむすめまいすにうられてはらみたりときけはそそろうきよさむおほへるねやほけつこゑゐてつのるわれこええぬせおちゐねぬくももゑふまをいろあたせんゆくへとほのやなんちひをふり
* 賣僧 仏法を種に金品を不当に得る僧

美人局
男小娘とわりなき契りして醉ひ醒めみれば美人局にあひゐぬ
念念に呪ふ色香をおぼえかぬる
吾ゆゑ迷ふ癒えぬ身空や
明日瀬浮く獸迷はむ大空路
ゆくへやけだし憂さ經て鳴る井
をとここむすめとわりなきちきりしてゑひさめみれはつつもたせにあひゐぬねんねんにのろふいろかをおほえかぬるわれゆゑまよふいえぬみそらやあすせうくけものまよはむおほそらちゆくへやけたしうさへてなるゐ

眼離れ
眼離れ久しきに家内蜘蛛の集けばをんな
よよと泣くはかり君来ぬ侘ひ住居
夕星そぞろ頬照らし居て
と愛負へる縁にをのこ
癒え堪へむ閨落ち身も失せ倦む氣ゆゑ
稀ら侘ぶる炉蟻寝させ笑め
めかれひさしきにゆぬちくものすたけはをんなよよとなくはかりきみこぬわひすまゐゆふつつそそろほほてらしゐてとあいおへるえんにをのこいえたへむねやおちみもうせうむけゆゑまれらわふるろありねさせゑめ

しのびかたらひ
人の妻とかたらひて連れ寄る家内に
君やわれ寝ごろいざなふ長谷の神
そぞろこゑよせむつふたぬしも
をんな
映え冴えて抉りおぼらす百合置く邊
うまずめゆるぎ分けゐむ愛を
有卦居む寝間も死地に帆合へ
ひとのめとかたらひてつれよるやぬちにきみやわれねころいさなふはせのかみそそろこゑよせむつふたぬしもをんなはえさえてゑくりおほらすゆりおくへうますめゆるきわけゐむあいをうけゐんねまもしちにほあへ

あけとり
股撫で胸ゆらし唇喫はせあふに詠める歌
しぬのめのひとつ衾をひき被き
まながりをれば明け鶏聲す
うち騒ぐ聲ゆおほよそ見え冴えぬ
院院御むろ渡れる色や
家搖せて屋根ら細氣
ももなてむねゆらしくちすはせあふによめるうたしぬのめのひとつふすまをひきかつきまなかりをれはあけとりこゑすうちさわくこゑゆおほよそみえさえぬゐんゐんおむろわたれるいろやいへゆせてやねらほそけ

眉目よきと
眉目よきとまぐはひ得ぬるしつくをば
されかうべにぬり願へるや何
と異端邪教の書開きてをんな洞寝頃さそふ落ち露逸れ
双頬笑む夢醉のあまり夢分け居て
和す聲絶えよ瀬瀬愛も堕ち
みめよきとまくはひえぬるしつくをはされかうへにぬりねかへるやなにといたんしやけうのふみひらきてをんなほらねころさそおちつゆそれもろほゑむむすゐのあまりゆめわけゐてわすこゑたえよせせあいもおち


ウロボロス
ウロボロス蓮の花より生れ出てて
太古の天をめくりわたれる
と神話を詠みつつ大空へ聲送るに
鵺や魑魅足掻き燃え居む域に搖せ
願ふ一生もうべなふ夢や
胸捧げ閻魔死せぬ地
うろほろすはすのはなよりあれいててたいこのそらをめくりわたれるとしんわをよみつつおほそらへこゑおくるにぬえやちみあかきもえゐむゐきにゆせねかふひとよもうへなふゆめやむねささけえんましせぬち

あからさま
女醉ひ夷(えひす)とあからさまのおこなふをいさむれは恨みおそへる
ぬき遊ぶ色に宴も声むせぬ
搖り搖る地割る諸音消えん世
たぼたぼと胃の神酒括り寝間見よや
八千年はめし傳手かへしめて
をんなゑひえひすとあからさまにおこなをいさむれはうらみてなくりおそへるぬきあそふいろにうたけもこゑむせぬゆりゆるちわるもろねきえんたほたほとゐのみわくくりねまみよややちとせはめしつてかへしめて
市女笠
市女笠にやつして参來ぬる姫を入れて牛車も揺らに契れはおおとよかり声聲
あけさせてゐぬ
絶えす吹く笛の音も幌分け越ゆ瀬
醉ひわたらん名御簾もほとろや
睦む音へそそり世波を經んあの袍
いちめかさにやつしてまゐきぬるひめをいれてうしくるまもゆらにちきれはおおとよかりこゑあけさせてゐぬたえすふくふえのねもほろわけこゆせゑひわたらんなみすもほとろやむつむねへそそりよなみをへんあのはう

かつてまじらひし女みまかれるを聞きて
我や老い心氣遠にありぬるも
恨みおもはず癒え映えむ夢
弱音吹く細瀬うつろに醉ひ居むや
紫陽花酌めり胸の瀬ゆ拔け
かすつてましらひしをんなみまかれるをききてわれやおいこころけとほにありぬるもうらみおもはすいえはえむゆめよわねふくほそせうつろにゑひゐむやあちさゐくめりむねのせゆぬけたたよふちへそのゐくん

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