夏の盛りに子どもと川へ行き、沢ガニを3匹ほど捕まえてきて池に放した。
1ヶ月ほどして2匹は残念ながら白い腹を上にして残念なことになってしまったが、まだ1匹は池に居る。残り1匹で寂しかろうと申し訳なく思うこちらの気持ちを察してどうかかわからないが、しばしば水底で恨めしそうに腕を振り上げている。
赤黒いその姿を見るたび、「沈む」タイプのエサを落とす。
エサくれといえば聞こえは良いが、海中の潜水艦をめがけて爆弾を落とすような造作である。顔ほどの場所に着弾すれば興味を示すが、左右に落ちたくらいでは私の親切心は通じない。
続々と発射するうち、金魚やドジョウが赤黒い甲羅を押しのけて爆弾を次々と口に入れる。慌てて走って水底の落ち葉の陰に隠れるのは、もちろん小さいながらも立派なハサミをもった小動物の方である。
しばらく楽しんでいたが、10月に入って姿が見えない日が続いた。
池の中央に作った島に、どうやって渡ったのか分からぬたくさんのアリが立ち往生しているのを哀れに思い、わずか半日であったが、池の端まで渡る木っ端を置いたことを思い出した。
どうやら夏から我が池をすみかとしていた沢ガニは、この木っ端を渡って外界に脱出したようである。
金魚やメダカ、ドジョウやタニシも楽しいが、沢ガニの姿は格別であった。どうも、手足がはっきりしているというのは、形は違えど同じものを持つヒトにとって、特別な感情を与えてくれるものであるようだ。
池から脱出した沢ガニが、畑を歩いている姿を思うと少し寂しい気持ちになった。
池の底に沈殿した木の葉をかき混ぜる。私が引っ越しを強要した住人ではない小さな生き物が網にかかった。ヤゴであった。
確かにトンボはここいらを散歩していた。緑色のその生き物は、突然日の光にさらけ出されてびっくりしたように顔を揺り動かす。
静かに水面に戻すと、すーぅと池の底に吸い込まれ、木っ端に紛れて見えなくなった。

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