toki の映画・読書ノート
映画と読書の感想と日常雑記
Happiness. Simple as a glass of chocolate or tortuous as the heart. Bitter. Sweet. Alive.
幸福。グラス一杯のチョコレートのようにシンプルで、人の心のように複雑。苦くて、甘くて、生き生きとして。
「
Chocolat ショコラ
」/ジョアン・ハリス
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2012/2/9
「月の上の観覧車/荻原浩」
国内作家
○月の上の観覧車(2011)/荻原浩
荻原さんの作品を読むのは、若年性認知症を扱った長編小説「明日の記憶」(2005)(映画もよかった)に続いて2作目です。本書には表題作を含む8つの短篇が収録されていますが、ほとんどの作品で、主人公たちは失職、妻の死、夫の定年、高校の同窓会、病気などを機にこれまでの人生を振り返ります。
冒頭の「トンネル鏡」では、50歳になる私は、新たな職につくために故郷の日本海に面した町に向う列車の中で、自らの過去と向き合います。3歳のときに父を亡くして以来、母と二人で暮らし、18で大学に通うために上京、母に婚約者を紹介するために通ったトンネル、娘を連れて帰ったときのこと。そして離婚して一人で母に会いに行ったときのこと。そして母の危篤を聞いて飛び乗った列車は、いつもより遅く、トンネルはいつもより数多く、ずっと長く感じたこと。トンネルの中で列車の窓ガラスに映る自分の顔を見て思うのは・・・
齢とともに鏡の中の自分が他人に思えてくるのはなぜだろう。情けないほど昔のままの中身を置いてきぼりにして、外見ばかりが年々変貌していく。男の顔は履歴書だというが、どんな履歴書を書き足そうが、長く使うほど用紙が色褪せ、皺(しわ)くちゃになることに変わりはない。若い頃の薄っぺらな白紙が懐かしかった。
侘しい述懐ではあるけれど、同じく中年を過ぎた者の実感としてよくわかります。
最後に収められた「月の上の観覧車」は、ガン闘病中の60過ぎの主人公が、彼が経営する会社のリゾート施設の観覧車に営業時間が終わってから一人で乗る話です。彼は、幼いときに一人で乗った観覧車で死んだ母に会い、50年近く前には観覧車で若い頃の父と出会っています。そして今、月のある空へ、一人きりで乗った観覧車で駆け上がれば、地上では会えない人々に会えると確信する彼は、4年前に逝った妻や、13歳で死んだ息子に会おうとしているのです。
誰にでも、死者とつかのま出会える瞬間がある。私はそう信じている。おそらく、その瞬間は人それぞれに違い、いつ、どこで訪れるのかがわからないために、たいていの人間が見逃しているだけなのだ。
本当にそうだったらなあと思います。
ひとつひとつの短篇に丹念に描かれたそれぞれの人生の重みが伝わってくる滋味深い作品集です。
テーマ:
読書
投稿者: toki
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