http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090831ddm002010115000c.html
<衆院選>民主圧勝 財界、政治支援のあり方 見直し必至
「恐ろしい。2大政党制ではなく一党独裁体制にならなければいいが」。財界首脳は30日夜、東京都内の自宅で自民党議員の落選を伝えるテレビ画面を見つめながらつぶやいた。
財界首脳が何をもって「恐ろしい」と言ったのか。
それは民主党が勝ったことではなく、自民党が負けすぎて解体しはじめることだろう。
そもそも、自民・民主2大政党制は、財界が音頭をとって、意図的計画的に10年かけて育ててきたものだ。その効能は、2大政党が表向き対決しているようにみせかけて、水面下では2大政党の両方の手綱を財界が握り、どっちが与党になっても、何回政権交代を繰り返しても、「財界が与党の手綱を握る」という構図を永久化するためのものだ。
また「
2大政党と財界が裏で談合して選挙時の争点を矮小化し、本来議論されるべき争点を外すとともに、他の争点を提起する第三の勢力を排除することで、既存の支配層の権力を温存している。」という効能もよく知られている。
田中宙の国際ニュース解説
http://tanakanews.com/
しかしそのようにして作った2大政党制と、それを保証するための小選挙区制は、本格的に稼動させてみたところ、民主党が勝ちすぎた。小選挙区制は小政党、第三勢力を排除する機能とともに、第1党と第2党の小差を大差に変換する機能もある。
定数300に占める獲得議席数の割合(議席占有率)は民主党73.7%、自民党21.3%で、その差が3.5倍だったのに対し、得票率は民主党47.4%、自民党38.7%で差は1.2倍しかなかった。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090831k0000e010071000c.html
民意を極端にゆがめるという、小選挙区制の「効能」は、2大政党制を作りたかった人たちには期待通りなのだが、今回は期待以上だった。
マスコミの「今回は政権交代選挙だ」キャンペーンの中、民主党旋風が起こされたことと、小選挙区制の効能の相乗効果で、民主党が至上最多の議席を占有した。しかし、それは財界が上記のように危惧する事ではない。そうではなくて、その反面で当然のことながら自民党が惨敗したことだ。すでにポスト麻生の自民党総裁のなり手がいない。「派閥」=利権誘導共同体も、議員が大量に落選したことから解体寸前だ。派閥構造で総裁を選ぶのが自民党なのだから、なり手がいないのは当然だ。
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=947485&media_id=20
もしも自民党が完全解体してしまったり、旧社会党のように選挙のたびに求心力を失い、完全に少数政党に成り下がってしまうのなら、財界のもくろんだ2大政党体制は出来ない。もしも政治への不平不満が今回のように爆発したときに、民主党政権に代わる保険的なもうひとつの財界の駒がない。他に適当な政党がないから、国民の爆発的感情の行き先は、彼らが排除したかった日本共産党などに流れてしまう。
あまつさえ、企業献金への国民的嫌悪感も強くなっている。小沢疑惑や鳩山疑惑をごまかすため、民主党はマニフェストに、企業献金禁止(4年後から。3年以内したたかにはもらい続ける)を盛り込まざるを得なくなった。
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/pdf/manifesto_2009.pdf
国民にばれるような直接的な企業献金ではなく、別の金脈・別の方法で自民・民主を操る手法、しかも、自民が資金不足から解体しないよう、2大政党制を延命させる方法を、財界は考えなければいけなくなった。そうでないと、いずれ本物の野党が台頭してしまう。それが最初のニュース記事の内容(財界の危機感)だろう。
で、民主党はマニフェスト通り、「脱官僚政治」を行うはずだ。官僚政治とは、官僚が政策をつくり、その官僚は天下り先として大企業に就職し、大企業は天下りの約束を餌に官僚をコントロールするという、癒着構造だった。官僚が立案する政策の決定者は、官僚ではなくあくまで財界という、間接的支配の構造だ。「脱官僚」という民主党の方法は、国会議員が官僚の代わりに政策を立案するようになるというものだ。しかし、大量当選した大部分の新人議員は、政治のド素人だ。素人の国会議員を知識面で支えるブレーンには「民間出身」という聞こえのいい言葉で、直接に財界人を投入することになるだろう。財界人が直接政界に入るのだから、誰かを金でコントロールするどころの話ではない。財界主導で政策を直接決定していく構造になる。これは財界にとっては良い方向なのだが、やりすぎれば、国民の反感が直接財界に向いてしまう。隠然とした支配、官僚を利用した間接支配のほうが、財界にとってはやりやすかったのだ。(何か不祥事がみつかれば、その官僚を切ればよい)
財界は、当面の利益だけでなく、10年後、20年後の利権の維持になによりも敏感だ。直接ではなく、影から政界を操る方法、批判が財界に向かわない方法、国民の選択先が、「本物の野党」に流れない方法を、彼らは模索しはじめている。

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