
■とっても長〜いエントリです。読むのに時間がかかります(11月19日に、六本木ヒルズ・森タワーにある、森美術館にいったときの話の続きです)。
■タワー52階の「東京シティビュー」にある売店で販売されていました。『都市のチカラ 超高層化が生活を豊かにする』という本です。この本の最後のページには、次のように書かれています。この本が、インターネット博覧会(インパク)に森ビルが出展したパビリオン(
http://www.mid-tokyo.com/)のもとに出版されたもので、海外からも表彰されるなど、国内外から高く評価されたとのことです。そして、「ウェブサイト制作以降、都市再生特別措置法が制定され、都市再生は重要課題として国家戦略に位置づけられ、都市再生の気運も高まってきています。」とも書かれています(118頁)。
■この本、都市再生特別措置法も制定された今、東京をある「観点」や「価値観」から徹底的に改造していこう、そのような提案書です。たいへんビジュアルであり、たくさんの情報を多角的に用いながら興味深く読める構成になっています。私は、高校時代の「チャート式数学」の参考書を連想しました。というのも、各章(1〜5章)の項目ごとに、「Chik it Now!!」というポイントが整理され、最後に「まとめ」まであります。少し見てみましょう。
■各章の結論は以下の通りです。
【第1章 都市を比較する】
都心の夜間人口が少ない
公園・広幅員の道路が少ない
土地利用にメリハリがない
小さな街区で、土地が細分化されている
【第2章 都市の魅力を測る】
国内外へのアクセスの弱い空港
未発達の国際観光
経済の規模では優れ、自由度では劣る
変わらぬ住宅事情の貧しさ
【第3章 東京の歴史】
第3章には結論はありません。この章では東京の都市形成の歴史的過程が説明されています。ただ、大変興味深いのは、「過去から現在へ」ではなく、「現在から過去へ」と遡っていく点です。
【第4章 都市のライフスタイル】
この第4章も結論はありません。ニューヨーク、香港、東京のライフスタイルが比較されています。ここでは都心に住むこと、職住近接が強調されます。「Chik it Now!!」では、「都心居住が進んだニューヨークは、身近な距離に生活を楽しめるところがあり、賑わいと魅力のある都市になっている」と書かれています。また、都市の活性化を図る取り組みも紹介されています。ついで香港が紹介され、「アジアの都市は、猛烈な勢いで、都市再生に取り組み、実行」していることが強調されます。そして日本でも、「六本木ヒルズや汐留などの新しい街の誕生によって、東京が変化しつつある」ことも同時に強調されます。「Lifestyle in ARK Hills 職住遊、多機能の街」、「Lifestyle in Roppongi Hills 職住遊、多機能の街」と、アークヒルズや六本木ヒルズが、職住が接近した都市へと変わりつつある東京の、その代表例として強調されています。
【第5章 21世紀のまちづくり】
最終章では超高層化で実現化する東京再生のシナリオが提示されます。
■
グローバリゼーションのなかで世界が競争的なシステムのなかに統合させれようとしている状況において、東京の都市としての問題点を指摘し、国際的な他の都市と比較することで、それらの問題点を強調する。そして、これからの都市のむかうべき方向性、トレンドのようなものを提示して、超高層化による都市再生を正当化し、うったえる。この本の構成は、そのような森ビル的「観点」や「価値観」から、なんの迷いもなく書かれているといってよいでしょう。つまり、
「森」の思想が、ここではストレートに表明されているのです。
■前回の記事「2つの『森』の思想(その1 )」でも触れましたが、ここで『アースダイバー』のなかで、中沢さんが述べていることを、もう一度書いておくこにしましょう。
「
いまアークヒルズビルの建っている場所には、かつて麻布谷町という『谷地』につくられた町があつた。ここは小さな家がごみごみと建ち並び、零細だが人間くさい生活文化が息づいていた。そこに巨大ビルをたてる計画が立てられ、土地の買い占めが進められていった。麻布谷町はゴーストタウンになったのである。土地の記憶は、削り取られてしまった。そしてそこにウルトラモダンなビルが建つ。東京の沖積層地帯の新しいタイプの開発が、ここ数年の都市部の風景を一変させてきたことに、多くの人はまだ気づいていない。」
■中沢さんは、『アースダイバー』の最後の部分で、次のようにも書いています。
「
これが東京という都市の本質なのではないだろうか。東京ではなにもかもが過剰していて、ホピ・インディアンの預言者が見たら、それこそなにもかもが過剰してバランスを失った世界である『コヤニスカッツィ』を代表するまがまがしい都市である、と厳しい判定を下すかも知れない。しかし、縄文地図を片手におこなうぼくたちの新しい東京散策が立証しているように、東京にはいたるところに、過剰した物質文明の作物を溶解・解体する能力を失っていない無の場所が残されていて、ここがたんなるコヤニスカッツィとなっていくのを防いでいる。
こうした事実をまっすぐに見つめようではないか。東京をつくりあげている精神の地層を横断していく、アースダイバー的散策を身につけていけば、直感はいつか揺るがぬ確信となって、この都市とそこに生きる人間の心を、根底からつくり変えていくことができるかも知れない。」
■じつは、このような中沢さんのメッセージに応えた人たちがいるのです。彼らは、中沢さんのいう「アースダイバー的散策」を、『アースダイバー』が出版される前からすでに身につけた人たちであり、独自の活動を行なっていました。そのお一人は、「
2つの『森』の思想(その1 )」に登場していただいたMさんこと
masaさんです。そして、masaさんのお仲間の
AkiさんやTamさんたちです。ぜひ、以下の記事(エントリー)をお読みください。
上原の無印良坂/
アースダイビング@下北沢 (追)/
アースダイビング@下北沢/
アーススダイビング@下北沢/
「アースダイバー」とアースダイビング大会
■私が専攻している環境社会学の分野では、歴史的環境の保全について研究している人たちの議論が、このような問題を考えるうえで関係してくるのではないかと思います。その代表的な研究者の1人である法政大学の
堀川三郎さんは、近年、様々な領域で議論されている「場所性」の概念をもとに、土地の二形態を
「空間」と
「場所」に区分して整理しています(堀川三郎,2000,「運河保存運動と観光開発−小樽における都市の思想」『歴史的環境の社会学』片桐新自,新曜社,122頁.)。
「
第一の意味は<空間>としての土地だ。個人の思い入れや歴史を含まず、土地をただ面積や大切として語るとき、それは<空間>である。都市計画法上の用語は、このよい例だ。それに対して思い入れや記憶、歴史を含んだもの、あるいは個人の生活との関わりで語られるような場合は、<場所>である。」
■いかがでしょうか。
「森」の思想が<空間>の概念につながり、それに対して中沢さんや、masaさん・Akiさん・Tmaさんたちの主張や行動は、
後者の<場所>概念に結びつきます。このように考えてくると、『都市のチカラ』の第3章「東京の歴史」で、「過去から現在へ」ではなく「現在から過去へ」と遡っていくことの意図が見えてきます。都市を<場所>概念で捉える人たちにとって、
歴史は大変重要なポイントです。その歴史とは、「
東京をつくりあげている精神の地層」なのです。ですから、都市を<空間>として捉える「森」の思想は、「過去が現在の本質を規定している」と考えるような思想を徹底して無視しなければならないのです。「現在から過去へ」と遡ることで、歴史を単なる過去として、現在とは関係ないものとして、過去をまさに過去のものとして封じ込めてしまう必要があったのではないでしょうか。

■この奇妙なオブジェは、「MAMAN」と呼ばれています。クモのお母さんです。おなかに20個の卵をかかえもっています。なんだか、私は、映画「エイリアン」を思い出してしまいました・・・。「
クモは世界中の多くの神話や伝説で智慧の象徴として登場し、インターネットでもWEB(クモの巣)という言葉を使います。 六本木ヒルズに世界中からの人々が集まり、出逢い、異なる考えがぶつかり、新たな価値、智慧が生み出され、MAMANが抱く卵のように、大切に孵化され、広がっていく。MAMANがそんな場の象徴になるようにとの願いが込められて、造られた」のだそうです(
不動産投資.com)。
■「世界中の多くの神話や伝説で智慧の象徴」として登場するクモ。中沢さんの様々な著書のなかでも、「
宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学」(『人類最古の哲学』)として神話がクローズアップされるのですが、このクモはそのような「はじまりの哲学」とは大きく異なっているように思えるのです。両者には大きな開きがります。このMAMANが抱えている20個の卵は、けして「宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学」としての「価値」や「智慧」ではありません。むしろ、
グローバリゼーションのかなで、あらゆるものを商品化・市場化していくための「価値」や「智慧」のように思えてなりません。(私のような立場からすれば、このような状況をどのように捉え、そしてどのように乗り越えていくのか(抵抗していくのか)、そのあたりの問題を真剣に考えていく必要がある、そのように思うのです)。
■このあと、私は東北新幹線にのり、岩手県の県北の町、一戸に向かいました。そこでは、東京の「森」の思想とは異なる、まったく別の「森」の思想と出会うことになりました。そのことについては、「2つの『森』の思想(その3 )」で書くことにしたいと思います。
(この記事(エントリー)まだ続きます。)
【追記】
特に、学生の皆さんへ。「都市再生特別措置法」については、
こちらを参照してください。また、少し古いですが、
こちらのNHKのページも参考になると思います。このページのなかにある、
出演者とその主張も。東京の都市再開発について、議論のポイントが少しわかるかと思います。

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