
■ここは、大阪の阿倍野です。阿倍野は、近鉄・南大阪線の阿倍野橋駅、JR天王寺駅、阪堺電気軌道の天王寺駅などが集まる、大阪の南の玄関口のようなところなのですが、普段、この界隈に足を踏み入れることは、ほとんどありません。奈良に住んでいる私にとって、大阪での行動エリアとは、梅田と難波、そして鶴橋あたりに限定されてしまいます。日々の通勤でも、奈良から京都経由で滋賀(大津)に行くわけですから、大阪の街、とくに阿倍野を通ることはまったくありません。そんな感じなのですが、先日、“意を決して”(と言うと大げさですが…)阿倍野に出かけることにしました(それにはちょっとした理由があります…)。
■トップの写真は、「あびこ筋」と「あべの筋」の交差点(JR天王寺駅前の)にある陸橋から撮影したものです。超高層マンションが見えます。「あべのグラントゥール」といいます。大阪市では、1976年からこの界隈で「阿倍野地区第二種市街地再開発事業」を進めてきましたが、その再開発事業エリア内のランドマークタワーとなるのが、この40階建てのマンションです。この再開発事業では、面積28haの広い区域の西側にはたくさんの市営住宅や分譲マンションが建設され、東側には商業施設がこれから建設される予定です。

■再開発のエリアを、南側からGoogle Earth の画像で見てみましょう。起伏の強調度を最大にしてあります。南北に段差のある台地が確認できます。大阪の皆さんであればよくご存知の上町台地です。この再開発のエリアは、
上町台地の
縁(←リンク先の画像は、国土地理院「数値地図5mメッシュ(標高)」標高データとカシミール3Dによって作成されたもののようです)にあるのです。ですから、マンションが建設されたエリア内の道路は、ゆるやかな傾斜になっています。そして、隣接するところは、旧・
飛田遊郭ということになります。

■【上左図】は、
大阪市の建設局が発表した資料です。ピンクのエリアがこれから商業地区の建設が始まるところです。ピンクのゾーンは、道をはさんで南北に分かれています。南の広いゾーンには、イトーヨーカ堂や東急ハンズができる予定になっています。また、北側の方は、JR天王寺駅や近鉄阿部野橋駅に隣接するこの再開発エリアの顔のようなゾーンで、ホテル、事務所、住宅が入るビルが建設されようです。【上中図】は南側、【上右図】は北側、それぞれ大阪市が発表したイメージパース図です。

■トップ写真を撮影した陸橋から、あべの筋沿いに南にむかって歩いていきました。まだ、あべの筋沿いで営業されている店舗もありますが、かつてあった銀行などはすでに移転しています。店舗のないとろこのほとんどは、白い壁で覆われています。その隙間から、この再開発エリアのランドマークタワー「あべのグラントゥール」が見えてきました。気がつくと、その横には、小さな不動産会社の看板がありました。いわゆる町の不動産屋さん、といった感じの小さな看板です。少し古風な書体で「土地と家」と書かれています。この風景も、再開発の現場に特有の「ギャップのある風景」なのかもしれません。

■ところで、なぜ、あべの筋を南側にむかって歩いていったかといいますと、この開発エリアのなかに大変有名な居酒屋があるからです。「明治屋」です(1938年創業)。こちらの居酒屋は、全国的にも大変有名な正統派の居酒屋です。東京の南千住にある、これまた正統派の居酒屋「大林」とともに、いわゆる昭和の居酒屋の雰囲気を濃厚に漂わせる横綱級(勝手にランキングしてしまっていますが…)のお店です。どういう訳か(訳はちゃんとあるのですが…)「大林」は2度訪れていますが、地元・関西の「明治屋」にはまだいったことがありませんでした。「これは、いかん」というわけです。
■お店のなかは超満員。たまたま、カウンターの角に1席あいていて、そこに座ることができました。まず生ビールで喉を潤してから、燗酒にうつりました。このような居酒屋では、徳利がガラスでできていることが多いわけですが、よくあるのは、「月桂冠」とか酒造メーカーの商標の入っている厚めのガラスの徳利です。しかし、こちらのばあいは、特製なのでしょうね、薄いガラスに、「明治屋」と白い文字がはいった徳利でした。いや〜、この徳利、ホンマによろしいな〜。猪口にも同様に「明治屋」の文字が。まあ、そんな感じで、水茄子の糠漬と冷奴を酒のアテに、店主が樽から枡に受けた酒を慣れた手つきで燗酒にしていくのを拝見しながら、賑やかな店内でホッコリ(←これも関西弁でしょうかね?)寛いでいったのでした。
■さて、ここで問題になるのは、再開発と「明治屋」のことです。当然、この店も移転する必要があります。その移転の問題が、先日の
朝日新聞の記事(2007年09月06日)にも掲載されました(大阪版だけだと思います。すぐにリンク切れます)。その記事の一部を転載してみます。
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「76年に始まった大阪市の再開発事業に絡み、97年、あべの筋西側に大型商業ビルが建つことが決まった。地権者約140人が新ビルへの入居を希望したが、3代目店主の松本光司さん(63)は02年に取り下げた。市側が当時示した新ビル設計案で、各店舗が新ビルの地下に入ることになったためだった。
『あべの筋でやっているから、お客さんが来てくれる。地下で続けるのは意味がないと思った』
その後、客から『続けてほしい』という声が上がったことなどから、再び市に入居を打診。しかし、すでに各店舗の床配分は明治屋抜きで確定していた。松本さんはあべの筋沿いで物件を探すつもりだが、今も移転先は決まっていない。
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■こういう居酒屋の名店は、個人商店であはあっても、多くの常連が「通い倒す」ことのなかで、意図せざる結果ではありますが、そこには、店と客が一緒になって創造してきた「伝統」のようなものが生まれてきます。その「伝統」から生じるアウラ(オーラ)のようなものを、人びとは大切にしたいと思うのです。そのようなアウラは、この再開発や移転でどうなってしまうのでしょうね。店主の松本さんが、「あべの筋でやっているから、お客さんが来てくれる。地下で続けるのは意味がないと思った」というお気持も、気になります。単なる経営という側面を越えた、店主・松本さんの「あべの筋」という「場所」へのこだわりのようなものを感じるのは、私の考えすぎなのかもしれませんが…。店と客が創造した「伝統」から生じるアウラや、「場所」性の問題、酒を愛する人びとにとっては、大変重要な問題だと思うのです(こんなことを書いていると、東京・吉祥寺のいせや総本店のことを思いだました。
(1)、
(2)、
(3))

■「明治屋」さんを出て、夜の再開発エリアのなかを歩いてみました。すでに多くの建物は撤去されて、網のフェンスで囲まれています。また、残った店舗も、ほとんど営業している雰囲気がありません【上上写真】。【上下写真】は、さきほどの2つのピンクのゾーンの境目にある立ち飲みの居酒屋「名門酒蔵」さん。こちらもいずれは移転することになるのでしょうが、今ところ、きちんと居酒屋の正しい雰囲気をお持ちです。しかし、周囲に目をやると…酒呑みとしては元気が出てきません。

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