2007/7/14
このところ、あるところに頼まれてロシア人の名前に関するエッセーを書いていた。ロシア人の名前はほとんどがキリスト教の洗礼名なので、種類はそれほど多くなく、たいていの名前には実際に出会ったことがあるので、なんとなくイメージはもっているのだが、それに関して何か文章を書くということは難しいことである。
今回いろいろと調べていて面白かったのは、ロシアでも姓名判断がわりと盛んだということである。姓名判断とは言っても、日本のように名前の画数に基づくのではなく、それぞれの名前自体に性格や運命などが刻み込まれていると考えるものである。この種の本はロシアでも数多く出ていて、名の語源、幼年時代の病気、性格、運命、異性との相性などのほか、ラッキーカラー、幸運の花などが載っているものもある。
あくまでもこれは姓名判断であって、実際にロシア人がそれぞれの名前の共通イメージとして持っているものとは言えない。でも例えば、ドミートリーが「頑固者で、時に激昂することもあり」、イヴァンが「強さと弱さ、優しさと冷酷さなど相反する性格を併せ持ち」、アレクセイ(アリョーシャ)が「直感力に優れ、周囲の者に優しい」などと性格付けされているのを見ると、カラマーゾフ家の兄弟達を思い合わせながら、案外多くのロシア人が名前に対して抱くイメージと合致しているものも多いのではないかと思わされる。
ほかにもアレクサンドルは「親分肌で、飲兵衛であり」、アンドレイは「世渡りが上手く、女性の内面よりも外見を重視する」。ミハイルは「子供時代から優等生で、たとえ友達にそそのかされて勉強をさぼっても、両親がきちんと目を光らせていれば、すぐに追いつく」。エカテリーナは「内気だが、着るものは派手であり」、アンナは「世話好きが多い。安物でも上手に着こなす」云々。
・・・笑ってはいけない。こういうものを参考にしながら、ロシアの親達も真剣に子供の名前を考えているのだ。
ほかに、もともとキリスト教と関係ない名前もロシアにはあるが、その中でスラブ民族特有の「〜スラフ」の名前がある。スタニスラフ、ムスチスラフ、ヴャチェスラフ、スヴァトスラフ、ヴラジスラフ、メチスラフなどなど。この手の名前はあまり人気が無いのか、現代ロシアでは比較的珍しいのだが、それでもリヒテル(スヴァトスラフ)やロストロポーヴィチ(ムスチスラフ)やブーニン(スタニスラフ)など音楽家の大物たちがいるので(ちなみにポーランド系の指揮者スクロヴァチェフスキも「スタニスワフ」で同じ名前・・・ポーランド語ではスタニスワフとなる)、外国人にも馴染み深い。
あと面白いのは、髪の色も名前のイメージと関係があるという点である。アレクセイ(アリョーシャ)やスヴェトラーナは金髪というイメージがあるらしい。スヴェトラーナは「スヴェートルィ」(「明るい」の意で、髪に関して使われると「金髪の」という意味にもなる)という単語との関連で、そういうイメージをもつのは理解できるが、アレクセイの方は分かるような分からないような・・・。
音声学の点では、母音(a, i, o, e)と鼻音(m, n)が多い名前が美しいと認識されやすいらしい。「最も美しい名前」というアンケートで上位にくるのも、だいたいアナスタシーヤ、エカテリーナとかアンドレイ、アレクサンドルなどで、確かにaとnの組み合わせが多い。
それから、ちなみにこの10年くらいの流行の名前は「アナスタシーヤ」(Анастасия)(愛称ナースチャ)らしい。これは19世紀までは普通に見られた名前だったが、革命後人気がなくなり、ソ連中期にはほとんど子供につけられなくなっていた。それが、ソ連崩壊後に大復活をとげ、この数年では名前ランキングの1位を占めることが多くなっている。
だいたいロシア人の名前は長ったらしいし、おまけに愛称形、卑小形など派生形が異常に多いので、翻訳を読んでいても誰が誰だか分からなくなるということで、読者にはたいてい嫌われてしまう。でも、それぞれの名前にはもちろんいろいろなイメージ、意味、歴史が込められているのであって、一つ一つ紐解いていくときっと面白いにちがいない。
投稿者: Takahashi
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投稿者:Takahashi
くまさま
やっぱり種類が少ないからできるんでしょうね。名前から作られる父称の占いなんかもありました。
ロシア人は姓のほうがバラエティーに富んでいますが、こちらでは同じことはできないでしょう。
投稿者:Takahashi
タカさま
姓名判断の本にはたいてい語源も付いているのですが、性格や運命についての記述はものすごく具体的で、語源が反映されているのかどうかよく分かりません。子供の頃にかかりやすい病気だとか、異性のどこに惹かれるか、どういう名前の人と結婚したら幸せかとか・・・。
アナスタシヤの件は、私もそうかなと思っていましたが、それについて触れている文章には結局出会えませんでした。ロマノフ皇女自体を指すのかどうかは分かりませんが、どちらにしても帝政ロシア時代の雰囲気が強い名前なのでしょうね。
投稿者:タカ
欧米人の名前は聖書かギリシャ・ローマの有名人の名前が大半であまりヴァリアントが多くないからそんなに変化しないかと思いきや、意外に流行はあるようです。そういえば、ロシア人の名前にはギリシャ語に由来する名前、ドミトリー、アルチェミーやソフィヤ、ヴェロニカなどがありますが、これは姓名判断でも語源を反映させたものになっているのでしょうか。
ついでながら、アナスタシヤがソ連崩壊後増えたのは、悲劇のロマノフ皇女アナスタシヤに同情票が集まったとかいうことはあるのでしょうか。