1943年11月ベルリン・フィルとの演奏記録が唯一残っている
フルトヴェングラーのブルックナー交響曲第6番だが、残念なことに第1楽章が欠落している。
交響曲を鑑賞する場合に全曲を通して聴くことは実際のところ多くないのだが、さすがに第1楽章の欠落は観賞上の大きな障害であり、巨匠のファンでも資料的価値しか見出してない人が多い。
ただ、私はその資料的価値が大好物なのである。しかも、腐っても“大戦中のフルトヴェングラー”、凡演であるはずがない。第2楽章アダージョの時代を象徴するかのような暗澹たる雰囲気の中から射す光の表現などはさすが。不完全でも聴けるだけ幸せと言うべきものなのだ。
私は1996年頒布の
仏協会盤で聴いていて、それは音質も肝心のアダージョでブーと変調ノイズが持続するという不具合があるものの、粗削りな迫力のある音質で十分観賞に堪えうるものだった。
さて、同じく1996年にEMIがリリースした
ブルックナー歴史的音源集にもこのブルックナー6番が収録されていて、それは前に
ココで書いた1991年返還マスターを使用していると言われている。
同じ年のリリースということで、私は仏協会盤もEMI盤と同じく返還マスターをしようしているのだろうと決めつけていたが、ふと本当にそうだろうかと疑問に思い、海外から取り寄せて聴き比べてみることにした。
するとどうだろう、返還テープを使用したとされるEMI盤はスカスカの音で、仏協会盤とはまったく違うものだったのだ。確かにEMI盤は変調ノイズも聞こえずスッキリ引き締まった音ではあるが、音楽から完全に生気が失われてしまっていた。これでは大戦中の巨匠の命がけの音楽を感じることなど到底出来ない。
仏協会盤の素性は定かではない。メロディア盤LPの板起こしかもしれないが、針音が聞こえないので確証はない。それでも大戦中の巨匠のブルックナー6番を鑑賞する上で仏協会盤が優れていることは確かである。

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