台風が去っていきました。
夜中に雨戸を震わす風は、
思わずテレビのスイッチをつけてしまうほど強いものでした。
11歳まで北九州で暮らしておりましたが
北九州は台風の通り道でした。
タバコや駄菓子を売る店の前に
護岸が固められた川が流れており
夏は縁台を出してアイスキャンディーを舐めたり
花火をしたりしていましたが
ひとたび台風となると、その川は不安要因になります。
水位が道と同じくらいになると同時に
水は地盤が低かった我が家に流れ込み
床上浸水は何度も経験しました。
「台風がやってくる」という日には
大人たちが畳を全部上げました。
雨戸を打ち付けて、
ひとり、ばあちゃんは
「やめたほうがいいよ」というみんなの声を背中に聞きながら
大きな石を庭の入り口に並べて、台風を待ちました。
台風が去った後は
川から溢れた水の中にいた魚たちが
我が家の庭で身をくねらせていました。
ドジョウやフナやコイやザリガニが主でした。
子供にとって、台風はワクワクするイベントでしたが
いつの頃か、ワクワクしなくなりました。
大人になったということでしょうか。
今は、無駄にウロウロしていたばあちゃんの気持ちがわかります。
氾濫したあの川は、
だいぶ前に蓋がされ、暗渠になっています。
道幅は広くなり、車がたくさん通り抜けるようになりました。
昔あったヨシズや、縁台は姿を消しました。

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