2009/4/26
黒薔薇が
展翅する
蝕(エクリプス)
白昼に一瞬
ギロチンの刃が落ちる
瑠璃蝶は
流刑にされた
流離王は
漂泊(さすら)っている
箒星は真の天に還れない

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2009/4/23
その扉開かれるまでもなく
いつのまにか侵入していた
反世界――いたるところ
剝きだしの傷のように
露出されて在る
闇に翼あるならば
魔圏の従者らも翔べ
だが
束の間の羽ばたきの後には
堕ちねばならぬ

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2009/4/22
非現在を
ふきゆく風
無縁とされたたましいの
殯の季をも
すぎゆくか
非現非在の幻村に
翹揺田わたる
春の風
逝きしものらの
ほろびを愛(お)しむ

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2009/4/21
吊りさげた
斧の下に睡るという
君との断絶を経て
言い聞かせている
生きるとは闘うこと
この世の花を
摘んではならぬ
とりわけアルビノは
生まれなかった花花の
死児変相かもしれぬゆえ

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2009/4/18
眼(まなこ)瞑れば
眼前(まなかい)に
燦と
青衣の
母います

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2009/4/17
鳥たちは
飛翔するため
前肢を翼にかえ
軽い骨を進化させた
私は 晨を歌う骨がほしい

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2009/4/16
祖妣(おおはは)に遡る
抛物線
無数の断裂創から
涌出する祈りで
荘厳されている

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2009/4/15
ガンガーの岸辺に
人の骸を喰らう犬
ここでは人も犬も
光と水と風のなか
命の廻りをめぐっている

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2009/4/14
心に届かない
魂に響かない
共振しない言葉
浮遊し浮動する言葉が
腐蝕性の海に泛ぶ
腐海に泛ぶ
肥え太った屍体
空を摑もうとして
突き出された手の
滑稽なほどのいたましさ
存在と存在の間に
幾重にも折りたたまれた襞ひだ
そのあわいに消えぎえに
かろうじて在るそれを
〈私〉といおうか
祈りに似た眼差しが捉えた
祈りのすがた
一生(ひとよ)を祈りぬく
ときめた人の相貌(かお)に
大いなるものの鑿の痕

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2009/4/13
偽預言者ら
数多(あまた)巷に溢れ
その声と言(ことば)の残滓だけが
虚しく空に漂う
祭りのあと(ポスト・フェストゥム)

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2009/4/13
私の傍にいる死者たち
胸に標された
炎と×印が彼らの名
何処の誰かは知らないけれど
白薔薇と呼んでみる

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2009/4/12
原始母神(おおはは)より離(さか)りゆくとき
毒そそぎ大地を穢した吾ら
もはや地の乳・蜜が吾らを育まず
吾らが曠野を彷徨おうとも
母よ 汝の子らのために泣くな

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2009/4/10
教えてくれないか
Zeroのこと――存在の零場(ゼロフィールド)
あるいは神の創造の場(にわ)
魂が還っていくべき
あのtoposのことを

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2009/4/10
人は
かなしみの
石を積む
那由他不可思議無量数*
積んで積んで底なしの
*那由他 一〇の一一二乗
*不可思議 一〇の一二〇乗
*無量数 一〇の一二八乗

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2009/4/9
ついにはじまりの
予感におわるのか
無傷の
酸い林檎のような
アポリア

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