■トップチームのスタイルをユースでも採用
両サイドに人数を割く紫の3−6−1が、ユース世代でも一大旋風を巻き起こしている。3バックでありながらストッパーが攻撃参加し、ダブルボランチと両ウイングがバランスを取りながら、人とボールを目まぐるしく動かして相手のマークを外していく。
J1復帰後のシーズンで3位(第26節時点)とAFCチャンピオンズリーグ(ACL)挑戦権に手をかけているサンフレッチェ広島のサッカースタイルを、今季は弟分にあたるユースチームでも採用している。
21日、群馬県ラグビー・サッカー場で行われた第20回全日本ユース(U−18)サッカー選手権大会の決勝トーナメント1回戦で、サンフレッチェ広島ユースは2−0でヴィッセル神戸ユースを下してベスト8進出を決めた。
序盤は守備の陣形を素早く整えて対抗する神戸に苦戦を強いられたが、54分にU−18日本代表MF大崎淳矢のPKが決まってリードを奪うと余裕が生まれ、ボール保持率をさらに高めた。77分には大崎がターンをしながらのトラップでバウンドさせたボールをダイレクトボレーで打った技ありミドルシュートが決まり、追加点を奪う。終盤は前がかりになる神戸を得意のポゼッションで翻弄(ほんろう)しながら敵陣で時間を費やし、完ぺきなクローズで勝利をものにした。
■兄貴分の背中を追ったいばらの道
今季の広島(トップチーム)は、少なくとも国内ではあまり例を見ないシステムを用いている。先発布陣は最終ラインが3バックの形を取り、中盤は両サイドのウイング、中央のダブルボランチ、左右各1枚の攻撃的MFの計6人で構成し、最前線にワントップを置いたフォーメーションとなる。3バックと両ウイングの守備時の関係は通常、ウイングの片方が最終ラインに入って4枚になるなどスライドで対応する場合が多い。
しかし、広島の場合はそれだけでなく、3バックの両サイドが積極的に攻撃参加を仕掛けるため、そのときには同サイドのウイングが低い位置に控え、ダブルボランチの1枚が中央へ下がって対応する場面が頻繁に見られる。
攻撃面ではウイングの持ち上がりに加え、ツーシャドーの飛び出し、最終ラインからのオーバーラップなど追い越しの動きを多く起こせるため、ポゼッションからスピードアップを図りやすいメリットがあるが、守備では各選手が常に全体のバランスとリスク管理を行わなければならず、複雑で難しい。
個の完成度で劣るユース年代での挑戦は、まさにいばらの道だった。ユースチームがこのシステムに取り組んだのは昨季から。初めはチームが機能不全に陥りかけたためにシーズン途中で以前の形に戻しており、今季あらためて再挑戦した格好だ。
神戸戦で3バックの右サイドを務めた森保翔平は「最初は中盤のリスク管理ができなくて(自分も中盤をやっていたが)カウンターを食らうとそのままやられたりしてましたね」と、苦笑いでチャレンジを開始した当時を振り返る。3バックの左に入り、この日の試合では果敢に攻撃参加を繰り返した宮本徹も「攻撃が好きなので今はやりやすいけど、これまでは4−3−3とか4−4−2だったし、やったことのないサッカーなので最初はどこにポジションを取ればいいか分からなかった。今でも運動量がすごく必要だし、サポートも常に心掛けないといけない部分は大変」と話した。
■来季は変更予定、育成を軸に置いたシステム選択
ただし、森山佳郎監督は来季、この魅力的な攻撃サッカーをユースでは一時封印する予定でいる。というのも、特異なシステムであるがゆえに、選手育成の面でメリットとデメリットがあると考えているからだ。
現在は、大崎に代表されるようにユースの選手がトップチームに合流あるいは昇格したときに、すぐにコンセプトを理解して戦術になじめるというメリットに重点を置いている。これは多くのプロ下部組織がトップチームと同じスタイルを用いる理由でもある。
トップが結果を出している現在の広島では、ユースの選手が「トップチームのサッカーは、見ていて楽しい。よく見て参考にしているし、(同じスタイルのユースも)自分たちのサッカーができれば魅力的なサッカーができているという気持ちがある」と口々に話すなど、トップというお手本を共有する形になっており、チームとしてもクラブとしても利点が生まれるという状況にある。
しかし、森山監督は「来季の中心となる1〜2年生には、世代別日本代表の候補選手が多くいる。代表に呼ばれたときに『そんなとこまで上がって行くな』と言われてしまう選手ばかりではマズイ(笑)。来季は一度今の形を壊して、普通の4バックとかをやっておかないといけないかなと思っています」と、現状を続けた場合に起こり得るデメリットとして、日の丸を着けて海外勢との勝負で磨かれる機会を失う可能性に触れた。
問題はそれだけではない。実際、U−18日本代表に招集された経験を持つ森保は「困るというほどではないと感じているんですけど、クラブだとボールを奪って上がったときに味方がたくさんいて選択肢が多いんですけど、代表だとそうではないので少し戸惑ったりした部分はありました」と話しているだけに、下級生の時期から特異なシステムだけに触れたならば、そのギャップがもっと大きなものになり、選手としての幅を狭めることにもなりかねない(トップチームのシステム変更に対応できる選手を育てるという意味を兼ねて考えても)。
こうした配慮は、広島ユースが森山監督の下でチーム成績と選手育成を成し遂げている理由の一端が垣間見られる気配りのようにも思える。
■目標は5大会ぶりの優勝、「相手より多く取れ」
広島ユースの次戦は、10月4日に福島・Jヴィレッジで行われる準々決勝の藤枝明誠高校戦。目標は5大会ぶりとなる優勝だが、課題がないわけではない。
3バックで最終ラインの人数が少なくても、パスをつないでいくことで連動性を上げていくのが広島のやり方だが、グループリーグの大分トリニータU−18戦では、最終ラインが相手FWのフォアチェックに引っかかり、そのままゴールを奪われるミスを繰り返した。それでも、森山監督は「課題は見たまんまです。あんなところ(自陣ゴール近辺)で取られちゃう。でも、だからといって(とにかくクリア優先で)蹴らせてしまったら、もうそれまで。だから『相手より多く取れ』と言ってます」と笑い飛ばす。
可能性は未完だからこそ溢れるのかもしれない。魅惑のシステムで大会を席巻する紫の3−6−1の弟分は、果たしてどこまで階段を上るのだろうか。
スポーツナビより
・トップチームが斬新で魅力的だが特異なシステムで結果を出している。
・ユースチームでも当然採用。
・同じコンセプトだと、トップチームにあがった時に入りやすいメリットあり。
・しかし特異なシステムな為、こればかりやると代表に呼ばれたときについていけない恐れあり?
・その為、今のシステムを一時封印して通常のシステムでやる。
なんだかおかしな話のような。
本当に画期的で使えるシステムだったら、代表を、いや世界を変えるくらいの勢いで貫いて欲しいなと。
でも森山監督も気配りももっともなんですけどね。
微妙な問題なのかな。

0