2007/2/14
フリードマンの罠
日本では1990年代初めにバブル崩壊によって景気低迷が続いた際に、当初は旧来型のケインズ型経済政策にもとづき、財政政策による景気刺激が試みられたが、景気への効果は悉く数年しか保たなかった。日米構造協議や経済のグローバル化のなか、規制緩和、所得税の大幅減税とフラット化、ゼロ金利、金融ビッグバン、など新自由主義経済政策もとられたが、政策に一貫性が見られず、1997年の消費税の引き上げとアジア通貨危機、2000年春の米国ITバブルの崩壊により、日本経済は巨額の財政赤字と不良債権を抱え、バブル崩壊後最悪の状況を迎える。
そして、2001年に小泉内閣が成立し、竹中平蔵が入閣すると、旧来型のケインズ型経済政策からの決別と、新自由主義経済政策への転換を明白にする。公共事業の削減が進められ、量的緩和政策など金融政策(政府による日銀への介入)によってデフレからの脱却を図ることとなった。こういったなか規制緩和も推し進められ、2004年には製造業の労働者派遣が認められ、労働者の非正社員化を促進した。
出生率については、1980年代半ばから低下し続けており、必ずしも、労働者の非正社員化が少子化の主因とはいえないが、20代・30代の雇用の安定と所得の確保は少子化対策の前提条件であり、この前提無くしては効果的な少子化対策は生まれないのではいか。
この点について、ネオリベラリズム(新自由主義)経済政策の論客、昨年なくなったミルトン・フリードマンの説が説得力を持つ。フリードマンは、今期の消費は今期の(絶対的な)所得水準に依存するというケインズの絶対所得仮説を恒常所得仮説を用いて非難した。
恒常所得仮説は、今季の所得を、恒常所得と変動所得(一時的な所得)に分け、恒常所得は、長期にわたって得られることが予想される平均的な所得のことさし、消費は今期の所得ではなく、恒常所得に基づいて行なわれるというもので、短期的な財政支出は消費には結びつかないと主張した。
ところが、この恒常所得仮説で労働者の非正社員化を分析すれば、フリーターや派遣社員など非正社員の不安定な身分は、給与所得の変動所得化と恒常所得の減少を招き、当然、長期的な消費は抑制される。恒常所得仮説の説明には、自動車や住宅の購入が例に挙げられているが、現実には結婚と子育てが最大の消費であり、非正社員が結婚と子育てを抑制することは、当然に導かれるものである。新自由主義経済政策による少子化という問題は、新自由主義経済政策の理論によって導かれるのである。

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