(卯月九日 上弦) 司馬遼太郎が考えたこと 1  

新潮文庫

司馬遼太郎のエッセイを集大成し、シリーズ15巻の予定で刊行された第1巻である。1953年10月から1961年10月までの産経新聞記者時代から直木賞「梟の城」前後までの89編を収録している。福田定一という新聞記者の成り立ちも新鮮だったが、戦後直後の混乱期の日本人の逞しさを改めてかみしめるものだ。大阪外大蒙古学科を経て満州に赴き、段々と戦力が乏しくなっていく中で、戦場に散った友の姿を瞼に描きながら、死と対面した時の描写は晩年の穏やかな司馬遼太郎からは想像できない福田定一の生き様をそこに見せている。

一生を大阪で過ごした司馬遼太郎は決して大阪人に甘くはなく、欲望剥き出しの人間にやりきれなさを覚えている。しかし、彼らの魅力にのめり込む自分の感受性を告白しながら、そうした人間の普遍性というものを描いたのも司馬遼太郎である。新聞記者といいつつ文化面を担当する記者として、芸術作品を見る眼は時代を超えた普遍性を養っていったのかもしれない。

第一巻で心に残ったのは出雲族の執念とも思える天孫族への対抗意識の高揚をにじませる老記者の存在である。「かたりべ」と自称する彼からは古代のロマンなどという言葉が許されない心の葛藤がそこにはあった。同一民族としか考えていない現代人だが、昭和30年代はまだまだはるか遠い時代を引きずっていた時代なのかもしれない。あの時代に生を受けた人間として、ある意味自分史と重なる場所を見つけようとする自分に気がついたのは、この文庫を読み終える頃だったのかもしれない。
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