(神無月九日) にっちもさっちも  

小林信彦著 文春文庫

週刊文春の連載コラム「本音を申せば」の2002年の文庫版である。これで5冊目という。「人生は五十一から」「最良の日、最悪の日」「出会いがしらのパッピ−デイズ」「物情騒然」と続いたのだが、さすがに4冊目はあの9・11のあった年なので、この題目がついたか。そして「にっちもさっちも」だ。2001年、2002年と21世紀に入って、日本は金融不安を伴う不況のど真ん中で(これは関西風、本来の東京であれば、まん真ん中である。)危機から脱却出来ずにいた時である。

小林氏は昭和7年生まれなので、当時は70歳。今時の70歳は若い若い、元気一杯である。若造の小泉を叱り飛ばしている。そもそも民営化などは、お上が民間の仕事を奪ってはいけないという論理で始まったのに、来年スタートの本格民営化では郵政公社は巨大な宅配会社そのものである。この人ほど、志と結果の食い違う政策をおこなった首相はいない。

そんななかに小説家の鷺沢萌さんの話にほろっときてしまった。「私の話」という本のなかで、在日韓国人との話の中で「私」は彼女達と憲法をつくることにした。憲法第一条・・・弱者には同情でなく愛情を注ぐこと。「私」は大笑いしてから、泣き出してしまう。

私は泣きはしないが感銘を受け、思わず文庫に付箋をつけた。いい言葉だ。こういうのを見つけてくれる小林氏が好きだ。
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