(師走廿四日 建国記念の日) ダナエ  読書

藤原伊織著 文藝春秋刊

久しぶりのハードカバー本を買った。本の帯に惹かれたからである。それには「黙って泣いた。」とあった。食道癌の告白で久しく新刊がなかったように思うが、「青い謎」からの「ダナエ」とオール讀物からの「まぼろしの虹」「水母(くらげ)」の中篇三篇である。淀みなく流れるストーリーの語り口はいつものように巧みだが、措辞のひとつひとつ、レトリックや描写、その裏に透けて見える作者の心が何か違うような気がした。繊細に組み立てられた「謎解き」の裏には彼自身の別れがあるように思う。

唐突に現れる萩原朔太郎の詩句やガーシュインの「サマータイム」とともにあふれてくる涙の描写はあまりにも切ないものがある。病魔のせいだろうか。気になる朔太郎の詩句の一部にはこうあった。

我れは何物をも喪失せず  また一切を失ひ尽せり。

ただ帯のごとく、黙って泣いて読み終えた。
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