(葉月壱拾日 重陽 八専始) 北朝鮮動向  政治

世界中の情報機関は昨日の北朝鮮建国60周年の記念式典を注視していたと思うが、ここまでのハッキリした兆候が見てとれるとは思わなかったのではないか。そこにあったのは金正日の不在も重要だが、と同時に、指導部の困惑と混乱である。マスコミは金正日の病状にばかり注目しているが、もっと重要なのは「パレードで行軍した部隊の正体ではないか。

今日の式典やパレードの模様を改めて振り返ると、建国60周年のパレードに金総書記は姿を見せず重病説も伝えられている。儒教独裁国家である北朝鮮にとって、還暦に当たる60年という節目はとりわけ意味がある。これまでの50周年や55周年の時ですら、テポドンを撃ったり大規模な軍事パレードを行い、いずれも金正日本人が閲兵してきたことを考えると、当然今年はそれらを上回る規模のものが予想されていた。

ところが首都・平壌の金日成広場では正規軍のパレードではなく、労農赤衛隊による閲兵式が開かれたのである。労農赤衛隊については民間兵力と書いているマスコミもあるが、これは正確な記述ではない。北朝鮮において労農赤衛隊の指揮権を持つのは労働党中央委員会の民防衛部であり、それぞれの部隊の幹部は職場や村の党委員会書記以下の党末端幹部が務めており、つまり「党官僚の軍」なのである。北朝鮮を理解する上では、どういう組織の上に乗っているかを知らなくてはならない。ひとつは党官僚であり、もうひとつは軍、そして最後が情報工作機関である。

軍も工作機関も建前上は党の支配下にあることになっているが、そこはそれ実際に武力という力を持つとどうしても下克上が起こり、金正日が「先軍政治」を称えたために、軍の下に党がぶら下がるようないびつな形が最近の北朝鮮の現状なのである。金正日が工作機関による日本人拉致を認めたというのは、何も日本人に対する誠実さを見せたわけではなく、こうした暗闘の中で、あの時には金正日が軍をとって工作機関を切り捨てる国内的な必要があったのではないかと見られているのである。

「党官僚の軍」である労農赤衛隊は本来の軍にとっては邪魔者であり、創設された1950年代には赤衛隊は重砲など軍に匹敵する装備を持っていたが、金正日がどんどん正規軍に重心を移し先軍政治を呼号するようになって、赤衛隊の兵力は削減されていった。その赤衛隊が国家の還暦という建国以来最も華やかたるべき60周年記念パレードに、正規軍を差し置いて行進したのである。序列と面子を重んじる儒教国家である北朝鮮としては「あり得ない」ことなのだ。
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