(閏皐月廿六日) 遺骨の真実  政治

週刊現代の7月23日号のなかで、日垣隆氏がコメントを寄せている。ここに抜粋させていただく。

テレビ朝日の番組のなかで司会の田原総一朗氏が、北朝鮮による拉致被害者である横田めぐみさんらが「死亡しているのは外務省の人間なら知っている」と発言し、多くの抗議を受けて公式に謝罪する、という事態が起きた。

実に不用意な発言である。ただ不用意さと無根拠ぶりが問題なのであって、その可能性に触れることをタブーにしてはならない。北朝鮮によって拉致されたまま無事が確認できない横田めぐみさんたちが、元気でいてほしいと願わぬ日本人はいないはずだ。<略>

かつて小泉訪朝のときに死亡報告が、北朝鮮政府によって日本側になされた直後、外務省の飯倉公館で福田康夫官房長官(当時)が各家族それぞれを別室に呼び、生存が確認された蓮池薫さんのお母さんが、福田長官に詳細を質したところ、「黙りなさい!」と一喝したという事実がある。横田めぐみさんについては、そのご家族を前に植竹繁雄副大臣(当時)が「娘さんは亡くなっておられます」と断言もした。そのやりとりをもとに、アナウンサーが「ご冥福をお祈りします」などと伝えたときにも、のちに強い抗議がなされている。敢えて言うのだが、死亡報道はその程度の裏付けでも仕方がない。疑義が生じてから、襟を正すしかない問題というのは必ずある。

もちろん福田康夫氏の冷徹さは実際、大いに非難に値する。しかも、北朝鮮政府は拉致という国家犯罪をおかしているのだから、日本政府が犯罪国家側の報告を家族に伝えることはしても、断言する立場にはなかったはずだ。ただし、その後に揉めることになる遺骨鑑定に関しては、今に至るまでまともに事実が確認されないままなので、ここでこの問題を取り上げておこうと思う。

北朝鮮側から遺骨10片を受け取った日本側(新潟県警)は、国内で最も権威があるとされる3カ所の機関――警察庁科警研、東京歯科大学、帝京大学法医学教室――に横田めぐみさんの遺骨であるか否かの科学的照合を依頼した。東京歯科大は不可能であることを理由に辞退し、科警研はDNAを検出することができなかった。ところが、帝京大学の吉井富夫講師(当時)だけが個人識別に成功し、「同一人物のものではない」という報告書を出した。その結果を今なお誰も検証していない。が、この問題に関心をもつ海外のサイエンス・ジャーナリストたちは、英国の科学誌「ネイチャー」などで、この結果に強い疑問を表明してきた。

吉井氏は、過去に一度も遺骨鑑定をしたことがない。世界の技術水準からしても不可能とされていたのに、どのような方法でやってのけたのか。説明を求められても、同氏はまったく答えることができずにいる。同氏による非科学的な(証拠がなくデータもない)報告だけをもとに、日本政府(当時の町村外務大臣や細田官房長官ら)は公然と「北朝鮮政府はニセ遺骨を寄こした」と国際的論陣を張り、北朝鮮を罵倒した。こうして、拉致問題は完全に膠着状態に陥ってしまったのである。

北朝鮮がニセ遺骨を寄こした可能性はあるだろう。罵倒したい気持ちもわからぬでもない。しかし、北朝鮮が日本政府に出してきたのは、「科警研が検出できなかったDNAを、帝京大学の講師だけが、一体どのように検出できたのか」という質問状である。この質問自体は、至極まともなのではなかったか?新潟県警の依頼で「不一致」と報告した吉井講師は現在、なんと警察庁の科警研に移籍しており、この遺骨問題については完全に緘口令が敷かれている。もちろん私の取材も拒否である。相手がひどい政府だから、こちらもひどくていいという考えは、健全なのだろうか?せめて、第三者の立場にある国に遺骨鑑定を依頼すべきだった。

この点については、今からでも遅くはないから、日本側の誤りを認めるべきだと私は思う。
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