2002年8月12日、僕は留学先であるハンガリーブダペストへ到着しました。間もなく始まる厳しくとも楽しい(はずの…)留学生活に意気揚々としていました。滞在許可のこと、アパートのこと、学校のこと…たくさんの手続きを終え、ようやく学生生活が始まろうとしていた時のことでした。
日本語の放送もないので、ほとんどつけることのないテレビ。そこに映し出されたのは衝撃的なあの場面…。9.11 飛行機がビルに突っ込む瞬間でした。目を疑いました。これが真実だと納得するまでに長い時間がかかりました。
世界はどうなってしまうのかという恐怖と不安でいっぱいでした。異国の地にやってきたばかりなのに…。僕はこのまま音楽を勉強していていいのだろうか…という気持ちにもなりました。
国と国、文化と文化が交わる時には必ず軋轢が生じます。それを暴力や破壊行為で自己主張することに怒りと悲しみでいっぱいになりました。洋の東西、肌の色、宗教…全てを超えてわかり合うことは出来ないだろうか…と、真剣に考えていた時に作ったのが、「鐘〜平和への祈り〜」という曲です。
日本のお寺の鐘の音、ヨーロパの教会の鐘…ともに僕の中では「平和」そのものなんです。
世界中で「鐘の音」が平和の音色として響き渡ることを願って書きました。ツィンバロンで鐘の音を表現するのは少し無理があるかもしれません。この曲は、ブダペストだけでなく、ヨーロッパの音楽祭、また中国で開催された世界大会でも演奏させてもらいました。また、そういう僕の想いに共感してくれた先生方やたくさんの友人達も、この曲を拡めてくれました。
子供の頃、遊び疲れて家に帰る頃になるとお寺から聞こえてくる鐘の音も、留学中、練習でクタクタになった頃、いつも聞こえてくる近所の教会の鐘の音も、それらはいつも僕をを平和で穏やかな気持ちにさせてくれました。


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