「生物多様性と地球の未来」と言う書籍が出版されました。
この本は、イギリスのオープン ユニバーシティで教鞭をとられたジョナサン・シルバータウンと言う方が書かれた翻訳本です。
生物多様性条約第10回締約国会議が日本で開催された2010年に、第65次国連総会が開かれ、2011年から2020年までの10年間を「国連生物多様性の10年」として決議されました。本書は、この決議を記念して出版されたもので、世界の全ての人々が生物多様性の重要性を知り、自然との繋がりを取り戻すことを目標としたものです。
日本では、全国の多くの自治体が生物多様性地域戦略を策定していますが、多くの担当が実際には「生物多様性」の意味をよく理解できないことも多く、本書は、行政担当者に対して読みやすくて包括的な入門書となっています。
本書のあとがきで、この本を次のように要約しています。
「自然は、人類を含む地球上の生きとし生けるものすべてを産み育み、同時にその将来を大きく左右してしまう存在として捉えており、そのことに伴う一種の畏敬の念が見て取れます。その上で生物多様性を保全してゆくことがいかに人類の存続にとって重要であるか、にもかかわらず、いま人類がいかにひどく自分の首をしめているか、今後、改善を図るには具体的にどうすればよいかということを、倫理的、科学的に分析・解説し、提案しています」。
多くの場合、開発か保全かと言う感情論が多いのですが、この本は、次の3つの章を軸に「生物多様性と地球の未来」を語っています。?生物多様性の起源からはじまり、?生物多様性の機能として生態系とその働きについて解説し、?最後に迫りくる危機と解決策を述べています。
?生物多様性の起源では、冒頭から人類が地球に及ぼす影響“エコロジカル・フットプリント”取り上げ、地球の許容範囲を超えている実態や“生きている地球指数”による数値が著しく低下している現状を踏まえています。その上で、地球誕生の背景から多様な生物が進化し、地球に反映して来た歴史をひも解いています。冒頭、述べた通り、多くの人々の生物多様性の理解度は低い状況です。生物の多様性とは、様々な生きものが沢山いれが良いと言うものではありません。生物多様性条約の和訳の定義に『「生物の多様性」とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。』と説明しています。この中に出てくる「変異性」を理解することが肝要になります。本書では、自然選択がはたらく遺伝性の変異については、新しい変異体を生じる遺伝子の突然変異によって、個体群内に蓄積されること。その結果として生物の個体群は生息環境に適応し続けること。変異があるからこそ、種を明確に定義するのが難しくなると述べています。また、種は変異の不連続性つまりギャップによって区別で、互いに交配して、生きる力を備えた生殖能力のある子孫が変化に富んだ長い生命の歴史を作り上げて来ていることを示唆しています。
?自然の摂理と言う言葉があります。つまり自然界を支配している法則のことです。生物は、複雑なつながりの中で機能し、生態系とその働きによる恩恵により私たちは、この地球に生かされています。では、私たちにとって必要な種は何種なのでしょうか?
例えば、宇宙船に乗って未知なる世界をめざしたとき、3つの必要不可欠なものがあります、まず「光合成を行う生物」と「排出物を処理・分解する分解者」、そして「植物を肉に変える消費者である動物」の3つです。また、もしもの時の代替え種も蓄えておく必要があるでしょう。現代の地球は、人類が増え、ほかの種の多くが絶滅の危機に瀕しています。私たちは、地球という宇宙船の船外にほかの種をどんどん投げ捨てて、積み荷の食糧を減らしていると言えます。
生態系の重要は種を決めるのに2つの事柄がかかわっています。それは、個体数の多さと、食物網における位置づけになります。自然の群集で生物種の個体数を計測した結果、ほぼすべてにおいて、個体数の多い種は、ひと握りで、大半の種が希少種でした。生態系の機能は、希少種の損失に耐えられるのでしょうか?
現在、社会は、持続可能な開発目標(SDGs)を指標にして取り組んでいますが、そもそも、ミレニアム開発目標(MDGs)で良い成果が得られなかったことが根本にあります。「持続可能な開発」という概念には、もともと、人類間の平等と同時に、生物多様性の保全も含まれていがた、いまだに本格的に実行に移されていません。本書では、2030年までの持続可能な開発目標を世界が合意しなければならなかった背景も読み取ることができると思います。
?現在の地球は、史上6回目の大量絶滅が起きていると言われています。これは、ジャーナリストのエリザベス・コルバート氏が『6度目の大絶滅』と言う著書によるものです。現在のペースのまま絶滅が進めば、今後数百年で動物種の4分の3が絶滅するとの研究が発表されています。限りある海洋資源、気候変動による環境の変化、世界中にみられる侵入生物による影響、自然界の行く末はこれからどうなるのでしょうか?
大量絶滅の一時例として、カエルツボカビ症の記述があります。しかし、科学は、常に進歩し遺伝子の解析技術も日進月歩、本書では、カエルツボカビ症(真菌性のカビ)でアフリカの風土病と記述されていますが、アジア起源であることが明らかになっています。
本書では、生物多様性の危機を無視することが未来の世代の健康や財産、生活の質にたえず負担をかけ続けることになると警告を鳴らしています。
私たちは、様々な種類の生態系サービスの恩恵を受けています。その様々なサービスを子孫に約束するのであれば、地球温暖化の原因になり、自然を乱して予想もできない結果をもたらすおそれのある、炭素の排出量の上昇を食い止め、下げていく必要がります。また、森林破壊に歯止めをかけ、生物のハビタットや漁場を再生させ、自然保護区を設けて生物を守り、貧困者の暮らしを支える持続可能な手段を探し、生物多様性を破壊せずに食糧を得られるようにしなくてはなりません。破壊してしまった自然を完全にもとに戻すのは無理でも、今、私たちは、行動を起こさなければならないのです。
生物多様性の保全と地球の未来
https://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-17165-5/
“自然と共生する社会へ!” 草刈秀紀

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