2009/11/25

森まゆみ「大正美人伝」  本・文学

森まゆみ「大正美人伝」を読んだ。日向きむ子を取り上げたものである。

と言ってもほとんどの人が知らない。

九条武子、柳原白蓮らとともに「大正三美人」と言われた。(他の説ではきむ子ではなく、江木欣々)。

この本の表紙はきむ子の写真。本当に美しい人だ。



義太夫夫婦の間に生まれ、後に料亭に養女としてもらわれ、芸事一般・書、茶、華道、和歌を身につけた。

実業家・政治家日向輝武に請われ妻となる。田端に大邸宅を構え、裕福な生活を送る。が、疑獄事件に巻き込まれた夫は狂死してしまい、6人の子どもを抱えて大邸宅も売り払い、自立を迫られる。

夫の死後1年も経たないうちに年下の林柳波(詩人・薬学者)と再婚したことは大正スキャンダルになる。美容液販売や一中節の師匠、踊りの師匠として生活を支える。戦後は「舞踊家」として活躍した。子ども8人、2人は早世。最初の夫とは死別、2度目の夫は他の女に走る。波乱の人生だったと思う。

図書館に本を返してしまったので、手元にないのだが、この評伝の中には、びっくりするような人々が次々に登場する。明治元勲の一人井上馨や、右翼の大物頭山満、杉下茂丸、後藤新平から西条八十、野口雨情、本居長世、夢野久作、鶴見俊輔、平塚らいてう、藤田まことまで。

もともと、薀蓄本は好きだから(司馬遼太郎「街道をゆく」が好きなのはそのため)、また、群像ものも好きなので、興味深く読んだ。

群像物といえば、たとえば堀田善衛の「若き詩人達の肖像」、臼井吉見「安曇野」(新宿中村屋の相馬夫婦を中心とした人々の話)、瀬戸内晴美「美は乱調にあり」他「青鞜もの」など。

割に進歩的な人の話を読むことが多かったから、料亭で育ち、実業家夫人となる人の伝記は初めてだった。

上流界夫人として、「青鞜」の新しい女とは対立する立場にあるようでいながら、後々は平塚らいてうとも親交を結んでいたという。

森さんが描く「きむ子」は、豪邸の夫人としている時も、没落して小石川の小住宅にいる時も、疎開して他人の家に居候している時も、変わらない。自分と他人を比べることがない。また、「新しい女」たちにありがちな「育ちのよさから来る上から目線」もない。

そして、いつもすくっと立っていた人と描かれている。

疎開先で食料に困る時も、「神様が与えてくださる」と平然としていたという。日向輝武がクリスチャンだった関係で彼女もクリスチャンだった。

この話はNHK朝ドラ「まあ姉ちゃん」を思い出させる。女4人の家庭、将来を心配する「まあ姉ちゃん(熊谷真美)」や妹の「長谷川町子(田中裕子)」さんに、母親(藤田弓子)は「汝、明日のことに思いわずらうなかれ」と平然としている。

長谷川町子さんの母親もクリスチャンだった。楽天的であると同時に芯の強さは共通のもののような気がする。

森まゆみさんの著作は「彰義隊遺聞」についで2作目。文献だけでなく、関係者に直接会って話を聞く方法は、「谷根千」編集の経験からかな。

とても気に入ったので、彼女の著作を続いて読もうと思った。

そこで、「女三人のシベリア鉄道」を図書館で予約しようとしたら、既に予約が一杯だった。何ヶ月も待たされそうだ。

「女三人」とは与謝野晶子、中条(宮本)百合子、林芙美子。面白そうだ。

仕方ないので「断髪のモダンガール」を予約した。米原万理さんが亡くなってから、続けて読みたいと思った女性作家がいなかったが、見つけた。楽しみだ。
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