2019/7/7
「新聞記者」を見て来た 映画
「イオンシネマ港北ニュータウン」に「新聞記者」を見に行ってきた。
イオンシネマ港北ニュータウンは横浜市営地下鉄「センター北」駅近くのノースポート内にある。
この映画館にはできたばかりの頃、「パイレーツ・オブ・カリビアン」を見に来た覚えがある。2007年頃だ。
今行ってみると、古びているなと思う。トイレは和式があったりする。
平日の午後、郊外のショッピングモールの映画館。しかし、ほぼ満席だった。びっくり。もちろんシルバー中心だ。
ストーリーは、
********
新聞記者・吉岡のもとに大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。彼女は真相を究明すべく調査をはじめる。
一方、内閣情報調査室官僚・杉原は葛藤していた。「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。
ある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
*********

加計学園獣医学部新設問題、御用記者山口の性犯罪もみ消し事件、前川喜平さんを貶めるための読売新聞報道など、現実の事件を下敷きにしている。
映画では初めから、前川喜平さん、映画原案「新聞記者」著者・東京新聞望月衣塑子記者、新聞労連南彰記者、ジャーナリストのマーティン・ファクラーさんの討論番組が映し出されている。
映画の意志ははっきりしている。
見終わっての最初の感想は、「面白かった」、そして「よく作ったなぁ」
つまり、日本映画は面白くない、そして政権を批判するような映画は作れないという思い込みがあった。
でも、考えてみれば、これ本当におかしなことなのだ。ちょっと前まで、松本清張や山崎豊子さん原作の政界・財界舞台の映画は当たり前にあった。日本映画だって、硬派の作品で面白いものが沢山あったのだ。
こう「意外」と思うこと自体が、今の日本の現状そのものだ。
映画には政権そのもの、政治家の名前は出てこない。海外の作品を見慣れていると、この程度の内容で驚いたりしてはいけないのだと思う。
しかし、できない状況で、挑戦する人がなかなかいない状況で、とにもかくにもこの映画を作った人々に拍手を送りたいと思う。
それにしても、主役二人、素晴らしかった。
吉岡エリカ役のシム・ウンギョンさん。テレビドラマの子役や「サニー」「おかしな彼女」で、既に有名な韓国俳優さんだ。(私は初めてだが、夫は「サニー」と「新感染」で見ているという)。
その彼女が、父が日本人ジャーナリスト、母が韓国人で、ニューヨークで育ったという設定で、全編日本語で挑む。
すばらしい演技だった。佇まいが、今まで見たことがない。身体の向き、動き、猫背になるところ、こういう身体の動きをする日本人女優さんはいないのではなかろうか。
どなたかが、「『左右対称』が全くない。身体、動き、服の着方まで」と書いていた。そう思う。
劇作家・映画監督山内ケンジ氏
「最大の魅力は圧倒的にシム・ウンギョンである。彼女は号泣から悔し涙、不安の涙まで何種類もの涙を自在にコントロールする。(中略)110分の間、彼女のあの目に吸い寄せられることになる」
そう思います。彼女が号泣すると、自然にこちらももらい泣きしてしまう。表情から目が離せない。
そして松坂桃李さん。彼もこういう実力派だったと初めて知った。妻を抱きしめながら泣くシーンは胸が締め付けられた。ラストに近いシーン。彼の茫然とした表情、こういう演技のできる人なんだなぁ。
(そういえば、松坂君は「パディントン」役の吹替えだった。とても上手だったと聞いた)
そして、歩く姿が、エキストラの中にいてスター俳優らしいオーラを放っていた。スッと目をひきつけられてしまうのだ。こういうの大事だと思う。
もちろん、田中哲司さん、北村由起哉さん、高橋和也さん、脇役がみな見事。田中さんの冷徹、北村さんの包容力、高橋さんの人柄の良さ、演技と言うよりにじみ出ていた。
高橋和也さんはジャニーズの「男闘呼組」メンバーだったが、いい味の俳優さんになったね。
同僚記者役の岡山天音さん、NHK渡辺あやさんの「ワンダーウォール」(京大の吉田寮を舞台にしたドラマ)で、信念を持った好青年を演じていて、印象的だった。
脚本は、政治的であるが、エンタメとしてもよくできていて、ハラハラドキドキ終盤に向けて盛り上げる。ラストシーンは観客にゆだねられている。
そうねぇ、気になったのは、どなたかが言っていたが、この映画の妻たち、昭和の妻だ、と。
夫は仕事一筋、家庭は二の次、家庭を守る従順で健気な妻。共に戦うパートナーではない。西田尚美の無駄使いとまで言われていた。
そうなんだよね。一方で、官僚の妻って、こんなものかな、と思ったりもした。
田中哲司さんの内閣調査室の官僚、できる男。夫は内調の官僚をかっこよく描き過ぎと文句を言ってた。もっとドジでズサンだ、と。
(内調ではないが、京大の吉田寮を捜索したり、常岡浩介さんを家宅捜索をした公安警察は予算獲得のための意味のない活動をしてる・無能と=常岡さんの講演から)
映画が終わって、出口に向かう時、女性グループの人たちが感想を言うのが聞こえた。「ウンギョンさん、面影があったわね」。
韓流ドラマファンかな、子役時代の彼女を知っているのかなと思った。
また、「あんなこと本当にあるの?」と連れの人に聴いている人がいた。即、「あるのよ!」と聞かれた人は答えていた。
この映画、テレビではほとんど宣伝されていないのに、興行収入が10位とか、1億円とか。映画館も満席が続いている。
こういう映画は、実は観客に求められていたのではないか。
もっと日本の映画界は現実に切り込むべきだと思う。
今の日本を描いたものとして、「万引き家族」がある。でも、この「新聞記者」の方が好きだ。
ジャンルが違うと言えばそうなんだけれど、「万引き」に描かれる女性像は好きじゃない。
吉岡エリカが働く女性で、仕事を描く作品だったのがよい。そして、色恋沙汰がない。

本当はもっと新聞社に女性記者がいるとよいのにね。
そうそう、今の閉塞状況を描く作品と言えば、演劇だけど、二兎社「空気」シリーズがある。
「ザ・空気」は田中哲司さん主演だった。田中さん主演で「ザ・空気」を映画にすればよいのに、と思った。
とにかく、日本映画に関わるプロデューサー、脚本家、監督、撮影、音楽、俳優さん達、この作品のヒットに自信と勇気を得て、どんどん問題作を作ってください。期待してます。
そしてもっともっと多くの人たちに「新聞記者」を見ていただきたいと思う。
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イオンシネマ港北ニュータウンは横浜市営地下鉄「センター北」駅近くのノースポート内にある。
この映画館にはできたばかりの頃、「パイレーツ・オブ・カリビアン」を見に来た覚えがある。2007年頃だ。
今行ってみると、古びているなと思う。トイレは和式があったりする。
平日の午後、郊外のショッピングモールの映画館。しかし、ほぼ満席だった。びっくり。もちろんシルバー中心だ。
ストーリーは、
********
新聞記者・吉岡のもとに大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。彼女は真相を究明すべく調査をはじめる。
一方、内閣情報調査室官僚・杉原は葛藤していた。「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。
ある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
*********

加計学園獣医学部新設問題、御用記者山口の性犯罪もみ消し事件、前川喜平さんを貶めるための読売新聞報道など、現実の事件を下敷きにしている。
映画では初めから、前川喜平さん、映画原案「新聞記者」著者・東京新聞望月衣塑子記者、新聞労連南彰記者、ジャーナリストのマーティン・ファクラーさんの討論番組が映し出されている。
映画の意志ははっきりしている。
見終わっての最初の感想は、「面白かった」、そして「よく作ったなぁ」
つまり、日本映画は面白くない、そして政権を批判するような映画は作れないという思い込みがあった。
でも、考えてみれば、これ本当におかしなことなのだ。ちょっと前まで、松本清張や山崎豊子さん原作の政界・財界舞台の映画は当たり前にあった。日本映画だって、硬派の作品で面白いものが沢山あったのだ。
こう「意外」と思うこと自体が、今の日本の現状そのものだ。
映画には政権そのもの、政治家の名前は出てこない。海外の作品を見慣れていると、この程度の内容で驚いたりしてはいけないのだと思う。
しかし、できない状況で、挑戦する人がなかなかいない状況で、とにもかくにもこの映画を作った人々に拍手を送りたいと思う。
それにしても、主役二人、素晴らしかった。
吉岡エリカ役のシム・ウンギョンさん。テレビドラマの子役や「サニー」「おかしな彼女」で、既に有名な韓国俳優さんだ。(私は初めてだが、夫は「サニー」と「新感染」で見ているという)。
その彼女が、父が日本人ジャーナリスト、母が韓国人で、ニューヨークで育ったという設定で、全編日本語で挑む。
すばらしい演技だった。佇まいが、今まで見たことがない。身体の向き、動き、猫背になるところ、こういう身体の動きをする日本人女優さんはいないのではなかろうか。
どなたかが、「『左右対称』が全くない。身体、動き、服の着方まで」と書いていた。そう思う。
劇作家・映画監督山内ケンジ氏
「最大の魅力は圧倒的にシム・ウンギョンである。彼女は号泣から悔し涙、不安の涙まで何種類もの涙を自在にコントロールする。(中略)110分の間、彼女のあの目に吸い寄せられることになる」
そう思います。彼女が号泣すると、自然にこちらももらい泣きしてしまう。表情から目が離せない。
そして松坂桃李さん。彼もこういう実力派だったと初めて知った。妻を抱きしめながら泣くシーンは胸が締め付けられた。ラストに近いシーン。彼の茫然とした表情、こういう演技のできる人なんだなぁ。
(そういえば、松坂君は「パディントン」役の吹替えだった。とても上手だったと聞いた)
そして、歩く姿が、エキストラの中にいてスター俳優らしいオーラを放っていた。スッと目をひきつけられてしまうのだ。こういうの大事だと思う。
もちろん、田中哲司さん、北村由起哉さん、高橋和也さん、脇役がみな見事。田中さんの冷徹、北村さんの包容力、高橋さんの人柄の良さ、演技と言うよりにじみ出ていた。
高橋和也さんはジャニーズの「男闘呼組」メンバーだったが、いい味の俳優さんになったね。
同僚記者役の岡山天音さん、NHK渡辺あやさんの「ワンダーウォール」(京大の吉田寮を舞台にしたドラマ)で、信念を持った好青年を演じていて、印象的だった。
脚本は、政治的であるが、エンタメとしてもよくできていて、ハラハラドキドキ終盤に向けて盛り上げる。ラストシーンは観客にゆだねられている。
そうねぇ、気になったのは、どなたかが言っていたが、この映画の妻たち、昭和の妻だ、と。
夫は仕事一筋、家庭は二の次、家庭を守る従順で健気な妻。共に戦うパートナーではない。西田尚美の無駄使いとまで言われていた。
そうなんだよね。一方で、官僚の妻って、こんなものかな、と思ったりもした。
田中哲司さんの内閣調査室の官僚、できる男。夫は内調の官僚をかっこよく描き過ぎと文句を言ってた。もっとドジでズサンだ、と。
(内調ではないが、京大の吉田寮を捜索したり、常岡浩介さんを家宅捜索をした公安警察は予算獲得のための意味のない活動をしてる・無能と=常岡さんの講演から)
映画が終わって、出口に向かう時、女性グループの人たちが感想を言うのが聞こえた。「ウンギョンさん、面影があったわね」。
韓流ドラマファンかな、子役時代の彼女を知っているのかなと思った。
また、「あんなこと本当にあるの?」と連れの人に聴いている人がいた。即、「あるのよ!」と聞かれた人は答えていた。
この映画、テレビではほとんど宣伝されていないのに、興行収入が10位とか、1億円とか。映画館も満席が続いている。
こういう映画は、実は観客に求められていたのではないか。
もっと日本の映画界は現実に切り込むべきだと思う。
今の日本を描いたものとして、「万引き家族」がある。でも、この「新聞記者」の方が好きだ。
ジャンルが違うと言えばそうなんだけれど、「万引き」に描かれる女性像は好きじゃない。
吉岡エリカが働く女性で、仕事を描く作品だったのがよい。そして、色恋沙汰がない。

本当はもっと新聞社に女性記者がいるとよいのにね。
そうそう、今の閉塞状況を描く作品と言えば、演劇だけど、二兎社「空気」シリーズがある。
「ザ・空気」は田中哲司さん主演だった。田中さん主演で「ザ・空気」を映画にすればよいのに、と思った。
とにかく、日本映画に関わるプロデューサー、脚本家、監督、撮影、音楽、俳優さん達、この作品のヒットに自信と勇気を得て、どんどん問題作を作ってください。期待してます。
そしてもっともっと多くの人たちに「新聞記者」を見ていただきたいと思う。
