2009/4/19

イー・トンシン監督映画祭で3本  映画

シネマート六本木、イー・トンシン監督映画祭、初日。
映画はアクション!
『忘れえぬ想い』で婚約者の恋人を失ったセシリア・チャン演じるヒロインがつぶやく、「変よね、涙が出ないの」。このヒロインがめそめそ泣き過ごしたりしていない健気な女であるからこそ、逆に観客のほうは目頭が熱くなるのをおさえることが出来なくなる・・。観客が涙するのは、メロドラマとしての筋書きによるものだけではない。もちろん、これは上質のメロドラマであることは疑いようもないのだけど、筋書きだけだったらほかにも同様のものがありそうな『忘れえぬ想い』が、他の類似のストーリーの映画と異なるものでもあり得ているのは、同時にこれがアクション映画でもあるからではないだろうか。実際、このヒロインがとった行動は、めそめそしている場合じゃないとばかりに、彼が遺した彼の息子の少年を守るために、彼の代わりにバス運転手になるという(バスの運転の経験なんてまったくないのに!)具体的な「アクション」にほかならないのだから。メロドラマを、恋愛ものを、アクションものとして撮ること。映画はアクション、人生はアクション、恋愛はアクション。その香港映画魂こそがイー・トンシンを「メロドラマの名匠」の域に留まらない映画を撮る監督にしているのではないだろうか。
傑作ラブコメディ『ぼくの最後の恋人』でも事情は変わらない。もちろん『忘れえぬ想い』は名作と言っていい作品であり、内容的な面の充実ぶりから考えてもこれをイー・トンシン監督の代表作の一本とすることに異論はないのだけど、しかし、軽快なラブコメディの『ぼくの最後の恋人』はもしかしたら『忘れえぬ想い』以上の大傑作なのだった。(それだけに『ぼくの最後の恋人』上映でトラブルがあったことはちょっと残念だったけれども。)
『忘れえぬ想い』のセシリア・チャンが「変よね、涙が出ないの」とつぶやくのが逆に観客の涙腺を誘うように、『ぼくの最後の恋人』のミリアム・ヨンは男勝りの酒豪で、だからいつも自分より男のほうが先に酔っぱらってしまうので自分が介抱してあげなければならなくなるのだけど、男が吐いているのを見ても平気な時にああ、この男を愛していると思うという健気な女であるわけだけど、しかし、決まって男は酔っぱらうと「結婚しよう」という言葉を口にするんだけど、翌朝、しらふになると男は口にしたことを忘れているという、だから酔っぱらった男が言うことは信用できないという女で、そう言いながらぐいぐいと男勝りに酒を飲むわけだから、観客のほうは逆になんともこのヒロインがいじらしく思えて来てしまうわけなのである。まあ、この男勝りの酒豪のアクションぶりといじらしさの落差こそがコメディであるということなのかもしれないけれども。そして、『忘れえぬ想い』が「アクションメロドラマ」とでも言うべき作品であるように、『ぼくの最後の恋人』は「アクションラブコメディ」なのだ。
また、イー・トンシン監督の映画は、裏稼業に生きる香港人たちを描いた映画でもある。『忘れえぬ想い』のミニバス運転手は、正規の組合には属さない不法な営業によるものだったし、ポルノ映画の世界を題材にした『夢翔る人 色情男女』も、映画内映画と言える撮影現場を描いたものでありながらシネフィル的な「映画愛」作品の域に留まらない作品になっているのは、それがポルノという裏稼業に生きる人達を描いた香港庶民派喜劇であるからだ。そして、ここでも、結局はアクションなのだ。この映画の1エピソードで、ある売れない監督は、走って、走って、ついには本当に現実の映画の撮影現場からいなくなってしまうのだから!ピンク映画の撮影現場を描いた森崎東監督の『ロケーション』を思い起こさせる、ポルノ映画の撮影現場をアクション映画として描いた快作である。
「アクションメロドラマ」、もしくは「アクションラブコメディ」。そういうジャンルがあるのかどうかは知らないけれども、イー・トンシン監督のこの3本の映画はそういうような言い方がふさわしいのではないかと思う。そして、ジャンルとしてそういうものが確立されているのかどうかはよく分からないけど、日本映画のファンならかつて「アクションメロドラマ」「アクションラブコメディ」と呼べるような映画を撮っていた監督のことを知っているのではないかと思う。川島雄三である。川島雄三のような「アクションラブコメディ」を現役で撮っている監督が香港にいることに日本映画のファンはくやしい思いをするべきなのかもしれない。
付け加えておくと、『夢翔る人 色情男女』で主人公の映画監督が自分がどういうポルノ映画を撮ればいいのか分からなくなって参考のために見るのはなんと『変態家族 兄貴の嫁さん』なのだった。こんな風に『変態家族 兄貴の嫁さん』を引用してみせる香港の映画監督の勉強ぶりと才気にもやはり日本映画ファンはくやしい思いをするべきなのではないだろうか。
0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ