2006/2/4

ハマース大勝についての記事(ベイルート通信)  イスラエルとパレスチナ、中東

下記の「ベイルート通信」に「ハマース大勝」についての記事があったので転載します。

http://www.geocities.jp/beirutreport/

ベイルート通信
連載「レバノン〜揺れるモザイク社会」

第9回「ハマース大勝」
裁かれたファタハ
 1月25日に行われたパレスチナ立法評議会(PLC)選挙で、初参加のハマースは全132議席中、単独過半数を優に超える76議席を獲得。今後の組閣交渉を主導することになった。一方、1960年代末から40年近くにわたり、パレスチナの意思決定をほぼ独占してきたファタハは43議席しかとれず、権力の座から追われた。
 ファタハが危ないのは事前にわかっていた。
 10年来の和平交渉で、イスラエルから譲歩らしい譲歩を引き出せず、独立パレスチナ国家樹立は夢のまた夢。汚職が蔓延しているのに誰一人追及されない。オスロ合意以来、日本も含め国際社会が湯水のごとく支援金を注ぎ込んだが、自治区の生活環境は一向に改善されず、職にあぶれた若者たちが街にあふれている。その一部は武装集団となって誘拐や銃撃など絶えずトラブルを引き起こす。
 外にこれだけ問題を抱えているというのに、ファタハ指導部は内部で権力闘争に明け暮れてきた。12月も半ばになってから若手幹部らがファタハを飛び出し、独立リストで出馬する有様。
 当時の地方議会選でハマースが躍進し、危機感を高めたファタハは若手を懐柔し、何とかリストを一本化した。しかし公認リストから洩れた候補者が立候補を取り下げない。例えば西岸地区のある選挙区では、定数1に対しハマースとファタハがそれぞれ1名ずつ公認候補を擁立。そこに実に9名のファタハ非公認候補が加わる乱戦となった。
 これではファタハ候補同士の共食いとなり、共倒れするのも当然だ。
 だから今回の選挙結果には、「有権者を裏切り続けたファタハが鉄槌をくらった」、「ファタハは自滅した」という側面が大きい。

ハマースの強み
 しかしもちろんそれだけではない。ハマースの主張や活動が有権者の共感を得たという面も無視できない。
 例えば和平交渉に対する態度がそうだ。
 和平交渉を続けても、イスラエルは占領地からまったく出て行こうとはせず、逆に入植地や分離壁をつくって占領の恒久化を図った。しかし、ハマースが粘り強く武装闘争を続けたガザでは、イスラエルは一方的に撤退した。
 前回書いたように、この撤退実現にはシャロンの様々な計算が働いており、単純に「武装闘争の成果」と結論出来るものではない。だが40年来の占領に苦しんできた人たちが、「和平交渉では返ってこなかった領土が武装闘争によって返ってきた」と受け止めるのも無理はない。
 それから、ハマースが行ってきた地道な社会活動もある。
 筆者は1990年代に日本のNGOの現地代表として、西岸・ガザ地区で様々なパレスチナ系組織と関わってきたが、その中で印象に残っているのはやはりハマース系の組織である。
 ファタハやPFLPなど、PLO系組織とハマース系の組織との大きな違いは、地域社会への密着度だ。
 PLO系組織は、大体欧米の大学で博士号をとってきたような開発経済分野のエリートが運営している。英語に堪能で、しかも国連や西側世界がどんな開発分野(例えばジェンダーや平和構築など)に興味を持つかを熟知しているから、プレゼンテーションが上手い。
 ドナーの側にはアラビア語が出来る人材は滅多に居ないから、流暢な英語を操るパレスチナ人エリートから、ジェンダーや平和構築など、開発分野のトレンドを押えたプレゼンを受けると、ころりと参ってしまう。
 そうやってドナーを説得して資金を確保するところまではよいのだが、何しろ自己資金が無いものだから、活動に継続性が無い。担当者がプロジェクトを投げ出して古巣を飛び出し、別団体を立ち上げるということも度々起きる。
 こういう団体の場合、ドナーとのつきあいは生命線だから、やたらと会議や出張に金がかかる。新たな団体が出来るたびに事務所の家賃や家具代、オフィス機器の経費もかかってくる。
 資金源も発想も、ついでに言えば服装や食生活に至るまですべて外国仕込みだから、本当に援助が必要な農村や難民キャンプに入っていくとどうしても浮いてしまう。その村の複雑な人間関係も理解していないから、プロジェクトをめぐってトラブルが起きると、収拾する能力もない。
 ハマース系組織は違う。財源は地域の喜捨(ザカー)基金や、湾岸諸国の信徒からの寄金が中心だ。喜捨はイスラーム教徒の義務だから、こういった金は安定して供給される。それに加えて、診療所や養鶏場、薬局、保育園など、収益のあがる事業も行っているので自前の資金もある。だからドナー諸国の意向や事情に左右されることはない。医師や弁護士、技師など専門技術を持った人材も豊富で、しかも現地でリクルートしている。地域社会を熟知し、完全に溶け込んで活動しているから効率的だ。「殉教者」の遺族の面倒もよくみる(もっとも、これは自爆攻撃というかたちで「殉教」させた側の責任というべきか)。
 褒めすぎのように思われるかもしれないが、実際開発事業の現場に居るとハマースには適わない、と思うことが多かった。
 昨年12月の地方選挙のあと、ハマースのハムダーン駐レバノン代表にインタビューして「勝利は予想どおりでしたか?」とたずねると、「いや、予想以上だった」と答えてから、各地方議会における予測得票率と獲得議席数をすらすらと並べるので驚いた。しかも各選挙区の候補者名をすべて諳んじている。現場から離れたベイルートの広報担当官なのに、現場の事情を緻密に把握しているのだ。
 PLC選挙の投票前日に会ったPLO大物幹部はその点対照的だった。豪放磊落で筆者も好きなキャラクターではあるのだが、獲得議席数の予想を問うたら
「ファタハ60議席、ハマース30議席というところかな」
と言う。いくらなんでも呑気過ぎないか、と思ったが、果たしてそうだった。

衝撃の余波
 予測を上回るハマースの大勝で、関係諸国も一様に衝撃を受けている。米国やEU諸国、日本などこれまでせっせとパレスチナ自治政府≒ファタハを支援してきたドナー諸国政府は、困惑を隠しきれない。小泉総理は「ハマースも責任を自覚して共存共栄の道を歩んでくれると良い」と珍妙なコメントを発したが、イスラエルの存在を認めず、自爆攻撃を繰り返すハマースと、ハマースの存在を認めず幹部をしらみつぶしに殺してきたイスラエルが果たして「共存共栄」出来るものかどうか。
 とりあえず、米欧諸国は
「ハマースがイスラエル殲滅と言う目標を捨て、武装部門を解体しない限り交渉は出来ない」
という立場を打ち出した。ハマースとしても実際に政権与党となるなら、傘下の「カッサーム旅団」を野放しにするわけにもいかず、自治政府の治安部隊にでも組み込んでいくしかないだろう。とりあえずはそこから始め、ファタハとの関係を修復し、自治区の治安回復に取り組むのが先決だ。
 イスラエルは選挙直前まで、自治政府に対してハマースを選挙に参加させるなと圧力をかけてきた。投票の前々日には、テロ容疑で無期懲役5回分の判決を受けて獄中にあるファタハ候補マルワーン・バルグーティに異例のテレビ・インタビューを受けさせるなど、ハマースの勝利を食いとめるために様々な手を打ったが、目的は果たせなかった。
 しかしハマースの圧勝はイスラエルにとって必ずしもマイナスではない。「和平交渉を再開しようにも相手が居ない」という理由で、西岸地区の入植地拡大や分離壁建設など、ますます一方的な措置をとりやすくなるからだ。
 ただし、ハマース大勝が3月のイスラエル総選挙にも大きく影響することは必至だ。
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