行列が嫌いという話を書いているうちに銀座にあった百円寿司の味川(あじかわ)を思い出してしまった。数年前に店を閉めたようだが、世話になった親父やおかみさんに挨拶が出来なかったのが残念だ。ネットで探してみたが06年まではやっていたようだが、移転か閉店かはよく判らなかった。
最初は1貫百円に釣られて入ったが、美味さに驚く。但し、97〜8年当時は食べたい物を注文する普通の寿司屋だった。刺身で1杯も可能だったが、ウニを頼むと軍艦巻き大盛りで出てきて、なんとこぼれた分をつまみにビールを1本飲めた(笑)。
何度かTVのグルメ番組にとりあげられてからは長蛇の列が出来るようになった。通常は一過性のブームで終わるのだが、困ったことにここの寿司はネタが良く本当に美味い。列は地下の入り口から階段を巻いて上がり、通りにまで伸びる有様だった。
何時の頃からだろう、映画館のように総入れ替え制を取るようになった。開店と同時に10数人をL字型のカウンター席に座らせ、扉を閉める。Lの短い部分は2〜3人しか座れないのだが、だいたい常連がここに座り足の前にあるクーラーボックスから注文の入ったビールを配る。そう、親父側からは出しにくい位置にあるのだ。
端から順番に2貫ずつ握っていく。最初は作りだめしたものが早めに出てくるが10数人分を親父一人が握るから忙しさは大変なものだった。そのうち軍艦物はおかみさんが作るようになったと記憶している。ぼーずは唯一のワガママ、名物である自家製のイカ塩辛を小鉢でもらい。のんびりとビールをやらせてもらっていた。
10種類20貫のお任せが終わると奥から個別の注文が可能になるが、1回限りでウニ、イクラのお代わりは禁止(笑)。小ぶりなので女性客でも20貫は問題なく平らげていた。まあ、大食いのぼーずでも5〜6種類も追加すればおなかは一杯になった。食べ終えた客から寿司を乗せる板と湯呑をガラスケースの上に置き、勘定を済ますのが味川ルールだった。
特筆すべきは親戚がやっているというフグ屋から直送の素材を使ったヒレ酒。こんがりと焼かれた鰭が大量に入っているので、熱燗を継ぎ足し3回まではいけた。こいつがまた塩辛とよく合うんだ。但し、あんまり長々と飲んでいると背後のガラス扉を通して、行列待ちの連中が発する視線で背中が痛みだす(笑)。
並ぶのが嫌いなぼーずが好きだったのは、たまに空きのある最終回。連れだって来る客が多いので1人分くらいならよく空きが出るのだ。余っていればウニのお代わりも許してくれるし、ネタや鯛の頭をもらって帰った事もあった。
腹が一杯だったので、帰ってから白身とマグロは酒と醤油に漬け、頭はカブト焼きにして寝酒の肴にした(これがイカンのや)。翌日は絶妙の竜田揚げを楽しんだ後、残った骨を煮出した出汁でニュウ麺を作る。2日間楽しませてくれる寿司屋だった。最後の不義理が悔やまれるなぁ。

2